12


「次っ!!17班、ミカサ・アッカーマン」

「はっ!!」

「エレン・イェーガー!!」

「はい!!」

「ロード・レヴィル!!、以上3名」

「………」

ちらりと眩い雪が降るなか行われる雪山訓練。事前に講義は受けたものの実際の山、さらにこの冬の季節。何が起きても可笑しくない状況の下では聞くのと体験するのとでは大きく違うだろう。
個々に荷物を準備し、呼ばれた班のもとへ行くと嬉しそうに俺を迎えてくれたイェーガー、そして気に食わないといった感情を隠すことなく睨み付けてくるアッカーマン。面倒な組み合わせの中に入ってしまった、不安要素しかないこの班に頭を抱えたくなるのは間違いではないだろう

各々の班に与えられたゴール地点を目指すこの訓練。スタートラインに誘導されつつ、配られた紙を見る。俺達が目指すのはD、最も過酷なコースを通らなければならないらしい

「D、か」

「…そこは毎年死者が出るコース」

「……行く前から不吉なこと言うなよなミカサ」

「大丈夫。エレンは私が守るから」

この地図からみて他の所よりも勾配がキツく、指定ルートを逸れたとしても緩く長い坂を長時間歩かなければならないのは目に見えている。このメンバーだ、体力面からいうと問題ないがしかし訓練が行われるのは雪山、吹雪いてこないわけがない

「………」

頭の片隅に残存する不安を無理矢理掻き消すように目の前に聳える山を睨み付けた



ざくざくと雪を踏み締め、白い息を吐き出しながらひたすら雪の地面を歩き続ける。ぶわりと肌を掠める寒波。風が変わったことを気にしつつも指針と雲に隠れつつある太陽の位置 を確認しながら進んでいく。しかし、これは何も一人で行う訓練ではない。ゆるりと後ろを振り向くと俺のペースに付いてこれない二人が必死に足を動かしているものだから俺もその場で足を止めた

「…ペースが落ちてきたようだな」

「いや、…まだ大丈夫だ」

「…どう思う、アッカーマン」

「休みましょう、エレン。今無理していたらこの先持たない。いい?ロード」

「あぁ」

渋るイェーガーを他所にその場に荷物を降ろすと、水を取りだしそれを口に含みつつ太陽をぼんやりと眺める。空高くあったはずの日は徐々に傾き始めその姿を隠す準備に入っていた
日が沈むまでに小屋を見つけなければ吹雪始めている雪山での生存は0に近くなる
だからといってこのペースで中間地点までいけるのか。考えたところで意味はない、これは二人の体力次第といったところか

「日が落ちる前に小屋へ着きたい。…行けるか?」

「えぇ、私は大丈夫」

「俺も行ける」

「…急ぐぞ」

急がなければ間に合わないだろう。行きの頃より顔色の悪いイェーガーが気にはなったが、彼奴が何も言わない以上俺から行動を起こすことはしなかった。一向に早まることを知らない速度に苛立ちを感じながら、それでも後ろの二人を気にしつつ前に進む。もう辺り一面暗くなり、ランプなしでは足元がみえやしない

「ロードっ!!」

不意に聞こえた呼び声に何だと振り返れば、ぐったりとアッカーマンに寄り掛かるイェーガーの姿。先程の予想は当たっていたようで、心配かけまいと己の体調を明かさなかったこいつに小さく舌打ちをもらした

「おい、イェーガー。今の気分はどうだ?」

「…頭がぼーっとする。それにあちぃし、息が、苦しい」

明らかな風邪の症状。イェーガーの言葉を聞きつつ額を手で触れれば伝わってくる熱に顔をしかめた。疲労しきったその身体は意識こそあるものの呼吸数が多い。予想以上の高熱を保ったまま、容体は誰から見ても悪化していることは明らかで。最悪なことに、今こいつの風邪を直してやる薬は持ち合わせていない。戻るまでこれ以上悪化しないよう努めるしかないだろう

「アッカーマン、これを持って先に小屋へ行ってろ。イェーガーは俺が運ぶ」

「私が、エレンを」

「…確かにお前でも運べるがお前にはやってもらいたいことがある。この先の小屋でイェーガーを寝かせられるよう準備をしておけ。こいつの身体を冷やすわけにはいかねェ」

「……分かった」

口ではそういってるもののよく思っていないのは確かだろう。しかし、アッカーマンも馬鹿ではない。ここで突っかかったところで状況が変わらないことを、寧ろ悪化することを理解し風を切るように駆けていった
俺は自分の着ていたコートをイェーガーに着せると彼を背中におぶり、先にいったアッカーマンの気配を辿り一歩踏み出す。ひしひしと伝わる冷気に自然と顔を歪めるも堪えられない寒さではない

「ロード…」

「何だ」

「お、まえ。コート、着ろよ。凍え死ぬ、ぞ」

「病人は黙ってろ」

「………っ」

「イェーガー、お前の容体は最悪だ。いつもなら風邪ですむかもしれねェがここは雪山、環境が悪すぎる。今は自分のことだけ考えてろ、訓練が終わったらいくらでも聞いてやる。今は俺に従え」

最低の結果に帰結してしまわないように。医術は万能では決してない。どう足掻いたところで医者に死人は治せないのだ
何故早いうちに対処しなかった。何故お前は何も言わなかった。考えたところで過去は変わらない、分かっているはずなのに押し寄せてくるのは後悔の波ばかりで

「……チッ、」

思わずでた舌打ちの先に見えた明かりのついた小屋に成るべくイェーガーに振動を与えないよう注意を払いつつ足早に近付いた。外で待っていたアッカーマンに先導されきっちりと準備された道具等々に驚きつつ、イェーガーを寝かせる。持ってきたタオルに外の雪を染み込ませ額に当てると少し辛そうだった顔も和らいだ気がした

「一日寝てれば少しは楽になるだろ」

「………」

イェーガーの横から離れようとしないアッカーマンにそう告げ壁に背を預ける。布団しか用意されていない小さな小屋で己の身体を暖めるものなどない。凍え死ぬことはない、落ち始めた瞼に逆らうことなく目を閉じようとした時、不意に捕まれた腕に閉じかけていた目をうっすらと開けた

「何だ」

「…貴方、冷たい」

腕を掴みポツリと呟いた言葉は静かな室内に響く。気にする必要はない、手を払いのけると次に差し出されたコートを視界に入れ今度こそまともにアッカーマンを見た

「足手まといになられたら困る」

「それはお前らのことだと思うが」

「………」

「今は自分のことだけ考えてろ、俺に構うな」

寝るきも失せた。立ち上がりすぐ戻るとだけ残して小屋を出る。外は相変わらず吹雪いており収まることを知らない。指を唇に持っていき音を鳴らせば程なくして姿を現したレイヴンに用件だけを伝え小屋へと戻った




(「コートと風邪薬を持ってこい。無理はするなよ」)
(「クェッ!!」)


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