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それは少しは奇妙な感情だったと今更ながらに思う

"気に食わない"

それが何を意味しているのかすぐに理解できた。面倒だと相手にしなかったらいいものの心の中の考えとは逆にその並べられた言葉に小さきながらも反応してしまって。いつかは彼女から突っ掛かってくるとは考えていたがまさか今日、それも俺の機嫌が悪いときに来るなど彼女も災難だったな、と何処か他人事のように感じた

「隣邪魔するな」

「……あぁ」

イェーガーの前に座る彼女をじっと見続けていると突然降ってきたその声に遅れながらも返す。それは意外な人物で。何度か見たことはあったが話したことはこの二年間で一度もなかった、皆から多大な信頼を置かれているライナー・ブラウン。しかしながら、こいつが来たといってわざわざ会話をしようとは思わない。さっさと夕飯を食べて部屋でゆっくりしようと隣に座った男に目もくれずパンを口に運ぶもなぁ、と声をかけられそれもすぐに消されてしまった

「お前、ロードだったか。今日ミカサのやつと一騎討ちしてたんだってな」

「…見てただろ」

「まぁ、どっちが強いのかって今までも何回か話題に上がったからな。流石だなお前。あのミカサを負かしちまうなんてよ」

「………」

感心したように言葉を紡ぐブラウンにちらりと視線を向けるものの別に興味を持つわけでもなく楽しげに話す内容を受け流した。俺の視線は相変わらずアッカーマンを捉え、そして取っ組み合いを始めたイェーガーに移した
それを見たブラウンも同じように彼らを視界に捉える。そして、先程の笑顔を消し真剣に見守るその姿は確かに信頼の置ける人物と言われているだけのことはあった

「ここにいる人間は弱い」

「?」

「簡単に崩れてしまうほど脆いやつばかりだ。それは人に限らず巨人もそう、動きを止めることは容易い」

「巨人も…って」

巨人。思いがけなかっただろうその二文字にブラウンは目を見開き俺を凝視したのが分かった。あの日、初めて巨人と対峙した時真っ先に感じたもの、それは恐怖でも歓喜でもなく戸惑い。軽すぎる身体、そして人にはなければならない器官が何処にも見当たらない異常さ。生物として有り得ないことばかりが目の前に広がり戸惑いと同時に好奇心、探求心に駈られてしまって。解剖してみたい、医者としての興味に引かれてしまった。しかし、それは本能のままに人を喰らう巨人に限る。巨人族のような意思を知恵を持ったものは面白くない。放った言葉にブラウンはただ戸惑いの色をその顔に浮かべ焦ったように俺の肩を掴んだ。何をいってるんだ、そう訴えているように

「巨人が弱いって、お前見たことあるのか?」

「言ったろ、俺の出身はシガンシナだと。そこなら巨人を見てても可笑しくねェはずだ」

偽った出身区が役に立つとは思わなかったがさも当然のように告げればブラウンの額に僅かながら冷や汗が伝う。それは彼が見たという巨人を恐れてか、それとも…

「恐ろしいとは、思わないのか?」

「なぜ?」

「何でって、そりゃぁ」

「…それは己の力が巨人に通用しない非力な奴の考えだろ。少なくとも俺は巨人よりも更に力を持った人間どもを知っている。それも超人に値するやつら、謂わば化け物だ」

脳裏に浮かぶのは悪魔の実を食べた強者たち。彼奴らが全員ここに来たときには簡単に巨人を駆逐し、彼等こそこの世界の恐怖になってしまうだろう
そんな奴等が当たり前にいる世界で生きてきた俺にこの世界の巨人のどこに恐怖を感じろというのか。握り潰されることか、使い捨ての玩具のように扱われることか、それとも家畜同然のようにただ喰われ死んでいくことか
いくら頭を捻ったところでこいつらの恐怖が何処から来ているのか理解できなかった

「巨人の中には特殊なやつだっている。お前がいたシガンシナ区を襲った超大型巨人に鎧の巨人、そいつらがここを襲ったときには…」

「…例えば鎧の巨人がいたとする」

「?」

「やつは門を打ち破るほどの強固な身体を持っている。そんな奴のうなじを削ぐことは不可能に近いはずだ、あの半刃刀なら」

「… … …」


「人類は皆軽い超硬質スチール性のそれでうなじを削いできたにすぎない。なら斬撃で首を落としちまえばどうなる。山や隕石さえも真っ二つにしてしまう斬撃なら…」

―案外切れちまったりするかもな
パンクハザード、ドレスローザの一件を思いだし口角を持ち上げる。この世界で俺は力を出すことが出来ない、ならばその鎧の巨人とやらに一度あってみたい。他の巨人と、あの巨人達と違うのであれば俺の力を受け止めてくれるだろうか

「戦ってみたいもんだ」

思わず口から零れた言葉に反応してくれる人はいない。小さく小さく呟いたそれは騒ぎ立てる室内にかきけされてしまった。その感情が何処から来るのか、そしてどこに行き着くのか今の俺には何一つ分かりはしない
好奇心に引かれるままただ目を細め前を見据えた
隣にいるブラウンの微妙な変化に気付きながら



(この世界を知りたい)
(久々に感じる探求心が俺のなかを駆け巡った)


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