09


「この講義で君たちに教える基礎中の基礎は全て教え終わった。巨人の殺し方、立体機動装置についての理解、初歩の兵法…等々。数ヶ月きっちり頭に叩き込んだだろう。しかし言った様に今までのは基礎であり理解できて当然のものだ。それをきちんと理解していなければここから先に進む事は出来ない。よって5日後に今まで講義で教えた範囲の試験を行う。日々座学に勤しんでいるならばいつ試験を行おうがそれなりの点はとれるはずだ。そして、この試験で合格点を取れなかった者は開拓地に戻ってもらう、以上だ」

開拓地送り、その言葉を教官が放った瞬間室内の空気がざわりと揺らいだ。不安、焦り様々な感情が行き交う中教材をまとめて部屋を出る。然程焦るものではない、今まで何で来たことは頭の中にしっかりと収まっている。それに医者である俺がこんな簡単な試験に落ちるなどという醜態を晒すわけがない

「ロード」

小窓から射し込む日の煌めきが眩しく目に痛い
突然呼ばれた自身の名に足を止め振り返れば、そこにはまだあの部屋にいるはずのアニが無表情に近付き隣に並ぶ。一匹狼である俺とアニの組合せに周囲は珍しいなどと小声で話してはいるもののそれを気にすることなく止めていた足を動かした

「余裕そうね」

「当然だ」

投げられた話はやはり次に行われる試験のこと。幾ら聞かれようが答えは決まっている、平然と答える俺にアニはフフっと笑みを漏らすとすぐに違う話題へと移った。それはここ最近俺に付いて回る彼の話

「あんた、いつのまにエレンと仲良くなったの?凄い好かれてるみたいだけど」

「一方的に、だ」

「というわりには満更でもないって感じしてるよ」

「面倒ごとに変わりはねェがな」

淡々と答えると俺達の会話はそこで途絶えた。お互いしゃべる方の人間ではないため話題が無くなるとそこに会話などは産まれない。ガヤガヤとざわつく周囲とは裏腹に俺達の間に流れる空気はこの空間から切り取られたかのように静まり返っていた
無言状態のまま向かうのは己の部屋。といっても大人数が身を寄せあって過ごす狭く窮屈な場所。いつまでたっても慣れないその場に自らがいく理由、それはこの時間だけが唯一あの部屋に人がいないから。夜の自由時間は皆就寝の準備をし寝床の上で各々したいことをする、しかし昼の自由時間には部屋に戻ってくる人間が少ない
今はとにかく人がいない場所に身を置きたい、そういう気分だ

「ねェあんた、あの金髪君とは仲いいの?」

「はぁ?」

「ロード、ここにいたんだね」

アニへと向けていた顔を前に戻すとそこに移ったのはイェーガーといつも共にいるアルレルトが小走りに駆けてくる姿。俺は正直コイツのことをあまり良しとは思っていない。それは性格の不釣り合いから来るもので、頭脳の面では一目おいてはいるもののしかしながら、それだけでしかない
じゃあ、と一言だけ残して去っていくアニを恨めしく思いながらも彼を邪険に扱うこともせずただ彼の口から用件が発せられるのを待った

「君にしか、頼れる人がいなくて…」

「?」

「5日後に行われる試験範囲のところで分からない箇所が幾つかあるんだ。そこを教えてもらえないかな?」

「他の二人がいるだろ」

「エレンとミカサも分からないって。ロードは何時も難しそうな本を平然と読んでるから講義の内容とか君にとって簡単なんじゃないかと思って」

あの女はどうか分からないがイェーガーに聞いても意味をなさないことは何となく想像できる。どいつもこいつも何故俺と関わろうとする、つい愚痴を吐き出してしまいそうになる。しかしそれは言葉になることなく溜め息へと姿を変え空気と交わった
一度目を閉じ苛立ちを納める、そうしなければ次の行動をとれそうにないから。降下していく気分は直りそうにないが仕方がない

「俺の部屋に来い。食堂は五月蝿くていけねェ」

「…っ、うん!!ありがとうロード!!」

こうも甘かっただろうか、俺は。不意に浮かんだ疑問に、今ある自分の行動にくつりと小さく嘲る
今だに考えてしまう、過去と現在の大きな違いに悩んでいる自分が滑稽だった。早く認めてしまえばいい、俺は変わってしまったのだと
甘い甘い、吐き気がするほどの甘さに慣れるしかないのだろう。残酷さと甘さを兼ね揃えているそれが今の俺なのだから

「おい、この事をイェーガーには言うなよ」

「?」

「彼奴まで来そうだ」

「フフっ、そうだね。エレンはロードのこと大好きだから」

「…………」

先が思いやられる。次々に面倒ごとが舞い込んでくることに、俺は顔をしかめた




(1位 ロード・レヴィル、2位 アルミン・アルレルト)
(「やっぱりロードは凄いね」)
(「……」)


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