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スコールの推測だが、ラグナはスコールにレインの面影を見ているのだろう。もとの世界の記憶が薄い彼が、母親似だという自分に何か感じてしまうのは仕方がないことだ。

(そうに決まってる……)

でなければ、期待をしてしまう。このラグナがスコール個人に惹かれたとしたら、元の世界のラグナも、いつか自分の息子ではなく、ただのスコール・レオンハートとして見てくれる日が来るのではないかと。

(違う。それだけは絶対にあり得ない)

期待するな。期待するな。期待するな。
同じ声、同じ顔、同じにおい、同じ仕草。それはスコールを錯覚させる。"ラグナ"が"ラグナ"であると勘違いさせてしまう。
自分はずるいな。スコールは自嘲した。それはかすかなものであったが、表情へと現れたらしい。僅かに笑みの形を描いた唇を、ラグナの指がなぞる。

「なあ、お前の本心を教えてくれ」

懇願するラグナであるが、翡翠の瞳には確信の色が混ざっている。

「俺を見ているときのあの視線の意味はなんなんだ?俺の勘違いか?」

熱っぽささえ感じられるその瞳から逃げるように、スコールは視線を顔ごとそらした。唇に触れていたラグナの指が外れる。
そんなスコールの態度にしびれを切らしたのか、ラグナの双腕がスコールを掻き抱いた。突然のラグナの行動にスコールは目を丸くすると同時に、嬉しさで動けずにいた。元の世界のラグナは、スキンシップ過多な性格であったわりに、こうして抱き締めてくることはなかったのだ。
呼吸すると胸一杯に広がる火薬の香りは、スコールが本来求めるものとは違う。
あのラグナは、銃を置いて久しい為に、こんな血生臭い匂いはさせていない。しかし、伝わる体温や耳にかかる吐息は変わりはしないのだろう。そう思うと、この柔らかな枷から動けなくなる。
本当に、自分はなんてずるい人間なんだろう、と再びスコールは自嘲せずにいられなかった。
もとの世界のラグナと結ばれないと知って、目の前のラグナを拒まずにいる。
代替えとして。

「スコール……」

鼓膜へと直接届く熱のこもった声。抱き締める腕は、返答を聞くまで離しはしないだろう。その証に、次第に力が強くなっていった。
これは求めている本来のラグナではない。あくまで、似て異なるものだ。それでも、ラグナに変わりはない。違う。これはラグナじゃない。じゃあ目の前の男はなんなんだ?ラグナだ。いや、ラグナじゃない。違う、ラグナだ。
本能が受け入れろと囁く。
「応えてしまえ」と。

スコールの手がラグナの背とまわる。弱々しく、躊躇いながら伸びるそれは、まだ彼が割りきれていない証拠だ。
しかし、ようやくのリアクションである。ラグナがその些事に気付く様子はなく、弛んだ拒絶に喜ぶのみだった。
そんな、スコールの真意を知ることなく、ラグナは抱擁をさらに強める。純粋なラグナを騙すようで、そして、元の世界のラグナへの想いすらも本能のままに行動して汚したような気がして、スコールは自己を嫌悪した。

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