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スコール・レオンハートは父親も母親も純米国人だが、英語はまったく話すことが出来ない。

いや、まったくというのは語弊があるかもしれない。高校の英語のテストで90そこそこの点数は取れるし英検も2級まで持っているが、じゃあ海外行ってきてくださいと言われると答えはノーサンキューだ。その程度に、英語力は低い。

ハーフや、両親が異国籍人の子供は両親の母国と今住んでいる国の両国の言語を話すことができる場合が多いが、悲しいことにスコールはそうはならなかった。スコールの両親が親日家で日本をこよなく愛していたことと、彼ら自身も当時まだ不慣れだった日本語に慣れるために英語を禁じていたのだ。おかけで、吸収の早い幼少期を日本語のみでスコールは過ごし、英語に本格的に触れるようになったのは中学に入ってからだった。
学校の授業に英語があるのなら、とようやく家庭内で英語を使いはじめた両親であったが時既に遅し。すっかり日本語の独特な文法に頭を冒されたスコールは父と母の会話は意味不明。自宅が海外状態となりストレスをためるだけで無く、中学では『外人でありながら英語が喋れない』という不名誉な印象を抱かれ、世の中の理不尽さに少し泣いた。

しかしここでくじけないのがスコールだった。家に帰ればいつでも英語が聞けるのだから、と前向きに考え、両親の会話を注意深く聞き取り中学生らしかぬ発音を会得し、わからない単語は親に聞いたり時には自分で辞書をひいた。そのおかげで、中学三年になるときには英語が得意科目になった。そのころにはもう、彼のことを英語が喋れない外人などとからかう者はいなかった。

そんな波乱な中学生活を過ごし、スコールは今年高校二年生になろうとしていた。
高校二年生。17歳。オトシゴロである。
スコールも例に漏れず、オトシゴロを迎えていた。恋だ。
しかし、スコールは悩んでいた。相手が問題だったのだ。

『おはよう、スコール。今日もいい天気だな!』

流暢な英語で話し掛けてくるのは、今年からスコールが通う高校にALTとして来ているバッツだ。他の生徒に比べると高い英語力と、自身に近いルーツを持った顔立ちに親近感を持ったのだろう。初めて会ったときからスコールに積極的に話し掛けてきた。

『おはよう、バッツ。たしか、今日は俺達のクラスに来る日だったな』
『ああ、今から楽しみなんだ!何て言ったってスコールと一緒にいられるんだから!』

奥ゆかしい日本人とは違い、海の向こうでのびのびと過ごしてきた彼は感情を表現することを躊躇わない。勢いで抱き着きそうな気配のバッツをさすがにおさえ、スコールはバッツとわかれて教室へ向かった。本当なら、あのまま抱き着かれても構わなかった。むしろ、彼の体温を直に感じたいし、彼の太陽のような笑顔をもっと近くで見ていたい。だが、廊下のど真ん中で同性とは言え生徒を抱きしめたなんて、バッツの評価を悪くしてしまうだろうし、まわりの生徒からの視線も痛々しいものになるだろう。平穏な高校生活のためにも、それは避けたかった。

しかし、スコールの本心は結局のところ、バッツと話がしたい。バッツのそばにいたい。バッツに触れたい。という不純なものだ。もともと得意だった英語をさらに勉強したのだって、全てはもっとバッツと話がしたいから。英語が得意だとは言え、自身に比べたらたどたどしいものだろうに、バッツはスコールとコミュニケーションをよくはかってきた。時には、怪しい日本語を駆使して、スコールを笑わせた。

そんなバッツが、スコールは大好きだ。

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