あけましておめでとうございます

2014.01.03.Friday

窓からの景色は青い空と青い海のみ。
ああ、彼の瞳の色だ。そう思い出し、ラグナは目を細めた。黒曜石のような長髪と同じ色の睫毛に囲われた翡翠の双眼は、しかしすぐに色を暗くしてしまう。窓の外に無限に広がる景色と同じ色が傍らに存在しないことを思い出したのだ。
スコールはSeeDで、SeeDは傭兵である。彼らが動くのは忠誠心や信念ではなく、報酬と評価だ。さらにいうなら契約は絶対であり、そこに他者が介入することは許されない。先に何者かとの契約が成立していたら、いくらラグナが何を言おうともどうしようもない。
要するに、バラムガーデンにスコール指名で護衛を依頼したら、すでに先約がいたのである。
稀にあることではあったが、ラグナが落胆しているのはその点ではない。今回の外遊を終えたらそのまま年末年始の長期休暇に入るよう調整し、外遊と休暇をスコールと一緒に過ごしてしまおうという企みがあったのだ。
最後に直接会ったのは季節を二つほど遡らなければならない。メールや電話では埋めることのできない心はすきま風が吹いていて今にも凍え死にそうだ。
きっとそれは、眼下に見えてきたバラムの美しい町並みと温暖な気候をもってしても、暖めることはできやしないのだろう。



バラム、エスタ、トラビア、ドール、そしてガルバディア。魔女戦争が終わり一見して平和が訪れたように見える。だが、人間の歴史は戦争が付き物であることをラグナは知っている。魔女という共通の敵を失った人類は、時をおかずして再び争いをはじめるだろう。実際、ガルバディアは相変わらずきな臭いし、エスタの内部にも強硬派は存在する。ドールもガルバディアにやられてばかりでは面白くないだろう。
最悪の事態を防ぐためにラグナは動いていた。世界すべてを巻き込むような争いを起こしてはならない。それは、スコール達のような子供を再び生み出さないためでもあった。
スコールは、父親であるラグナの顔はおろか、母親のレインのことも覚えてないなかった。スコールを産んで間もなくして亡くなった所為もあるだろうが、当時エルオーネが幼くレインの形見となるようなものや写真などを残せなかったことが大きい。
結果として、スコールはエルオーネの特殊能力によって母親がどんな人間だったのか知ることができたが、世界中の孤児達のどれだけが親の人となりを知ることができるだろうか。せめて自分の権力でできるかぎりのことはしたい。そう考え、ラグナは各国の首脳との会談を計っているのだ。
まずはガーデンのこともあり友好関係を築けているバラムからと思い、今日の来訪となった。今後年を明けてから、ほぼ自治領となっているF.Hや、魔女戦争中にミサイル攻撃を受けたために反ガルバディア思考のトラビアと順にまわって行くことになるだろう。今まで以上に忙しくなるのは目に見えていたし、だからこそスコールと共に居たかった。
バラムの街郊外に降りたラグナロクの傍にはバラム政府の迎えの黒塗りの高級車が到着しており、後部座席の扉が開かれている。
そして、その扉を開いている人物を視界に入れるとラグナは目を見開いた。

「お待ちしておりました大統領閣下。街まで御身を警護させていただきますレオンハートと申します」

それは紛れもなくスコールであったが、見慣れぬ黒スーツと無表情に、知った人間であるはずだがまるで初対面のようだった。

23:13|comment(0)

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