モンハン

2012.11.22.Thursday

ハンターというものは、基本的にはギルドに所属したり、街や国のお抱えになることがほとんどだ。だが、バッツはその基本ではない例外の部類だった。どこかに定住することを嫌い、風のように旅をする。路銀が尽きれば、ギルドに依頼するほどの経済力がない者達からのクエストをこなす生活。
だが、そんな彼がこの街にたどり着いて早三日。その間、仕事を探していなかった。
人の看病をしていたのだ。
面倒な、と思いつつも見捨てることもできない。せめて目が覚めるまではと心に決めていたが、いかんともしがたい状況に辟易しながら窓の外を見ると、バッツの心情を表すかのように雨風で荒れていた。

(まるでこいつを見つけたときみたいだ)



すべての始まりは三日前。

季節の変わり目であるからだろうか。常よりも不安定な気候の山を抜けようとしたことを、バッツは後悔しはじめていた。
外装はすでに重く濡れ、その役割を半分も果たしていない。空を見ると、雲の範囲はその分厚さに似合わずさほど広くない。すぐやむだろうとは思うが、たたき付けるように降り注ぐ雨粒に自身が跨がる相棒を心配した。

「もうちょっとで次の街につくからなぁ。頑張れよ、ボコ」

主人の声に、応えるかのようにチョコボ、もといボコは一声鳴くと、ぬかるんだ山道をしっかりと踏み締めながら駆けていく。旅慣れた彼らにとって、この程度の困難は造作もないことだ。悪路をものともせず進み、この調子ならば予定通り街につけそうだとバッツがあたりをつけたときである。

「―――っ、どうどう!」

手綱を引くと、ボコが小さく悲鳴をあげた。それでも、ぬかるみ力みにくい足元でもしっかり急停止した相棒に対しバッツは、首を軽く叩いて褒めてやる。と同時に、視線を森の中へとやると、森にあるには不自然な人工的な色合いがそこにはあった。人が倒れている。
ボコを道で待たせ、バッツは倒れている人物へ近寄った。同時に、辺りの気配も探る。怪我人を装った賊の可能性を否定できないからであるが、それ以上に、もし倒れている人物がハンターであるならば、周囲に怪我を負わせた魔物がいるかもしれないのだ。もし後者が現れたとき、場合によっては見捨てて行かなければならない。他の人はどうか知らないが、少なくともバッツは自分の命が一番という考え方だ。
自己犠牲結構。だが、それを自ら実践しようとは思わない。
もっとも、今回はそんな心が痛むような展開にならずにすみそうだ。周囲は雨が降っていて多少は視界が悪いものの、バッツ達以外に生き物の気配はない。
人は男であるようにみえた。曖昧に感じてしまうのは、中性的で整った顔立ちをしていたからだ。美醜にはあまりこだわらないバッツが思わず見惚れそうになるほどであったが、雨にとけながらも地面に広がっていく赤が視界に入り、はっと我に返り男の脈を確認した。―――弱ってはいるが、生きている。
ならば、することは一つだ。
男の身体と、そばに落ちていた彼のものであろう武器を抱え、バッツはボコのもとへと急いだ。




よく助かったものだ、とそのときの怪我の状態を思い出し、男の生命力の強さに感心する。
否、強いのは運のほうだろうか。ハンターとしてはあまり大柄ではないバッツと、同じくらい細身の身体は強靭には見えない。実際、包帯を交換したり身体を拭くときに触れる身体に付いている筋肉は、さほど厚くなかった。
それよりも目をひいたのは肌の美しさだった。良いところの子息だろうかと思うほどに、ろくに手入れもしないバッツとは違っていたのだ。日焼けすらしていないので、それもあながち間違いではないのかもしれない。傷は身体のあちこちにあるが、どれも跡が残ってしまいそうな重傷だ。

(……にしても、もったいないとこに傷つけてんなぁ)

傷は男の額にもあった。なまじ整った顔立ちをしているだけに、それは目立つ。
これだけは跡が残らなければいい、と思っていると、長い睫毛がふるふると震えていることに気が付いた。

「ん?起きそう?おーい」
「……ぅ、ん……?」

これでようやく自由だ。そんな思いを裏切り、この先も目の前の助けた男によって様々な出来事に振り回されることを、バッツはまだ知らない。

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