KIRIBAN | ナノ





reserve





春とは思えないくらい寒い日が続いているある日

天気のいい日を選んで『ツーリング』に誘われた

メンバーは私を含めて3人

ヒールのある靴とスカートは禁止にされた

まぁ…乗りにくいよね…

逸る気持ちを抑え、待ち合わせの公園へと急いだ

見たことのあるバイクが公園の入口に2台ある



『…あ…』

「おはよ♪」

「…うっす…」

『お、おはよ。待たせてごめんね…』



そこにいた二人は、同じ高校の同級生

私が文化祭実行委員だった事で仲良くなった二人だ

瀬戸タケルくんと新山ヒロキくん

二人に誘われて…というか、ほぼ、新山くんのごり押しに近いけど三人で出かける事になった



「俺の後ろでもいいけど、いろいろ弄ってるからさ。タケルのバイクに乗ってよ!」



屈託なく笑う彼、新山くんはそう私に告げると瀬戸くんの肩をポンッと叩く



「ほら、アンタのメット…」



私と目を合わせる事もなく、ぶっきらぼうにヘルメットを渡してくる



『あ、ありがとう…』



仲良くなってほんの少しだけ近づけたと思ったのにな…

今日の瀬戸くんは機嫌が悪いみたい…



「…なんて顔してんだよ。俺のケツだと不安か?」

『そ、そんな事ないよ…』



睨まれると…

やっぱりまだ怖い…



「たぶん寒いからさ…ナツちゃん、これ着…て…?…どした…?」



私と瀬戸くんの間に流れる不穏な空気を読み取った新山くん…



『ごめっ!私が悪いの…』



咄嗟にそう答えると、瀬戸くんの顔色が変わった



「何でアンタが謝ってるんだ?」
…………』



だって…っていうか…

そんなに機嫌が悪かったら、思わず謝っちゃうでしょ…



「ん〜…あー、もうわかった!タケル、お前俺の単車乗れ!」

「あ?何で…ていうか、お前の癖がついてて転がし難い…」

「自信ないのか?」



ニヤニヤと笑う新山くんにまんまと乗せられて、瀬戸くんはキーを新山くんと交換した



「ごめんね?俺の後ろでもいい?安全運転するから…」

『う、うん…よろしくお願いします』

「はい、よろしくされます♪」



新山くんて…面白い…

人を不快にさせる事なんて絶対にしない人だよね…

気がつくと彼のペースに巻き込まれてるんだけど、全然嫌じゃない…

新山くんに少し大きめの革ジャンを渡された



「やっぱ、ナツちゃんにはでかかったか…」



確かに袖から掌が出ない



『うん♪ブカブカ…』



それでも何となく嬉しかった



「これ、俺のなんだ。中学ん時にバイク乗りに憧れて買った最初の買い物!」

『そんな大事なモノ…いいの?』

「いいの、いいの!もう俺着れないのに捨てらんなかったし♪」

『あ、ありがとう…』



新山くんの私物だとわかって、気持ちが高揚する



「匂いとか、気にしないで…」



革独特の匂いがやっぱりする

後は…オイルの匂いかな…



『大丈夫!気にならないよ』



新山くんに益々包まれている気分になった



「おい!そろそろ出発するぞ!」

「おう♪」



瀬戸くんの声を合図にバイクのエンジンをスタートさせる

私は、新山くんの腰に遠慮がちに腕を回す



「もっとしっかり掴まって!後、怖くなったらちゃんと教えて!!」

『うん!わかった!』



新山くんの手が私の手を確かめるように触れる

手袋越しなのに…

すごく温かくて…

恐怖も何もなくなっていた












瀬戸くんのバイクには一度乗せてもらった事がある

新山くんの運転は…すごく丁寧っていうのかな

瀬戸くんとはまた違う安心感ていうのがある



その時、瀬戸くんが乗ったバイクが私たちから離れた

ほんの一瞬、目が合うとそのまま見えなくなった

瀬戸くんの後をパトカーが追いかける

その方向とは逆に新山くんはハンドルを切った

暫く走って、新山くんがバイクを止めた



『ねぇ!瀬戸くんがっ!』



頭の中がパニックになって、新山くんの背中を叩く

ヘルメットを外した新山くんは、興奮気味の私に向き合う

私のヘルメットを外してくれて…



「タケルは大丈夫だ!俺のバイク、改造してるだろ?だから、目について追っかけられてるだけだ。アイツなら振り切れるよ…」



不安そうな私の顔を見て、新山くんが微笑む

そして…そっと

抱きしめてくれた

風を通さない厚手のジャンパーを着てるのに…

私に新山くんの心音が響いてくる



トクン…トクン…



それを聞いていると不思議と落ち着いてきて…

私の様子を伺っていた新山くんが不意に口を開く



「タケルも場所はわかってるから、後で合流するよ。さ、俺達も行こうか…」

『…うん。取り乱してごめんね?…あと、ありがとう…』



ゆっくりと新山くんから離れる…と



『きゃっ!!…新山…く…ん?』



また私は新山くんの腕の中にいて…



「タケルの事、頼むな?」

『え……?』



私に絡みついている腕に益々力が入る



「頼む…」

『…やだ、やだよ…』



涙が込み上げてきた

新山くんに瀬戸くんを頼むと言われて…

悲しくなって…

彼の体を押し戻す

大粒の涙がボロボロッと零れて…



「ナツちゃん…?」



困った顔の新山くんが私を覗き込む

私自身、なぜこんなに涙が溢れてくるのかわからなかった


ううん…

ホントはわかってる

私は、新山くんを男の子として意識してる

だから…

瀬戸くんを頼むと言われてショックを受けたんだ

頭で考えるより先に体が反応し、涙が溢れて…

《 嫌だ 》と言葉で伝えていた

無意識に…



『わ、私は…瀬戸くんじゃなくて…新山くんの事が…好きなの…』



私の手は新山くんではなく、彼に借りた革ジャンを抱きしめていた



「ナツちゃん、ありがとう。暴走族なんてやってて、ロクデもない俺の事をそんな風に…」



優しい新山くんの声に思わず顔を上げた

やっぱり彼の眼差しは…優しい…



「今すぐナツちゃんと…なんてできないけど、君とは100%で向き合いたい。…だから…もう少し待ってくれる?」



わかる…

新山くんの言いたい事…



『…うん…うん…』



でも、涙が止まらなくて…

それだけしか言えなかった



「ちゃんとナツちゃんの元に行くから…」



その言葉が嬉しくて…

もう頷く事しかできなかった



「タケルの事、頼むよ。アイツ、友達は俺しかいないからさ…」



さっきの頼むって…そういう意味だったの…?



「さ、そろそろ行こう。あっちのバイクに夕べから張り切って作った弁当載せてんのに…。美味いんだぞ!俺の弁当…」



涙を拭いて笑顔を作る



『うん!新山くんの作ったお弁当楽しみ♪』



そう言うと

彼の右手が私の後頭部を押さえたと同時に…

額に唇が触れた



「予約…な?」


ヘルメットを被り、エンジンをスタートさせる

再び彼のお腹に両腕を回すと彼の手が触れて私を確認する

バイクが走り出し、再び風を受ける
















新山くんの瀬戸くんを思う気持ち…

そして、私に待ってと言ったのは、いろんな事に区切りをつけてから…

将来の事、チームの事…

私、新山くんがいろんな事を決めるまで…

待つよ…

reserveされたし…

待ってる…















-end-

2010.03.19


ナツ様に捧げます
10000番ありがとうございます
そして、これからもよろしくお願いします
ナツ様のみお持ち帰り可能です




prev  next




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -