KIRIBAN | ナノ





小悪魔lip






チャリン…



私の手の中に落とされた金属



「これ、うちの合い鍵…」



驚きに満ちて彼の顔を上げると、優しい眼差しを向ける櫂と視線がぶつかる



『…でも…何で?』



彼の家に行く時は必ず一緒に行ってるか、彼の待つ部屋に行くから、あまり必要だと感じた事がなかった



「俺が持っててほしいの。…重い?」



そんな綺麗な目で私を見ないで…

櫂と一緒にいるだけで、私の心拍数は跳ね上がっているのに…

フルフルと首を横に振り、彼から貰った鍵を握りしめた



『…ありがとう。嬉しい…』

「うちの鍵を渡すなんて初めてだから、ちょっと緊張したぁ♪」



頬をほんのりピンクに染めて笑う櫂の八重歯がやけに目についた



『櫂でも緊張するんだ…』

「そりゃあね?…かやちゃんの前ではいつも緊張してるよ…」



あ…

急に真面目な顔…

彼の指が私の頬に触れる



ドクン―…



心臓が大きくその存在を主張して、体が緊張する



「今は…何もしないよ…」



そう言って優しく私を包み込んでくれる

いつも私の気持ちを読んで、私の負担にならないようにしてくれる

彼のさりげない優しさにいつも甘えてしまう…



『櫂…』

「ん?」



私がその名前を呼ぶと、いつもと変わらない笑顔で応えてくれる



『合い鍵、宝物にするね?」

「宝物でも嬉しいけど、ちゃんと使ってほしいな♪夜這いに来たって良いんだよ?」

『え?…夜這いって…』



恥ずかしくなってしまって、思わず櫂の視線から逃れる



「フフ♪…かやちゃん、かわいい♪」



オデコに落とされたキスもリップ音をさせるから、また更に恥ずかしくなってしまう



「耳まで真っ赤だよ?」

『もう…意地悪…』



彼のキスは、柔らかくて温かい…

何故か安心感に包まれて、とても気持ちがいい

キスを気持ちがいいと感じるなんて…



「意地悪、嫌いじゃないでしょ?」



悪びれた様子のない櫂には参ってしまう

でも確かに…

嫌いじゃない……



「鍵を渡したんだから、俺のいない時に部屋に入ってもいいんだからね?」

『…でも、やっぱりそれは…。中々できないよ…』



恋人から渡された…初めての合い鍵…

いつ、どんな形で使うかなんて、タイミングもわからない



「ん〜…。困ったね?」



そう言う櫂は、あまり困ってないように見えるけど?



「でも、かやちゃんの事、信用してるから渡したんだよ?」

『うん、ありがとう…』



櫂の気持ちは痛いほどわかる

いつか使う日が来るのかな…

そんな事に想いを馳せてみる



「ね?お腹すかない?」



櫂の言葉にどこか夢の中にいたような感覚から現実に引き戻される



『うん、お腹すいたね…』

「じゃ、ご飯食べに行こうよ!」

『ご飯なら私が…』



そう言った私の唇に櫂の人差し指が触れて、その後の言葉を続けられなくなった



ドキン…



また心臓が跳ねる

櫂が頭を傾けて、斜め下から私を見上げるこの角度…

私が弱いのを知っていて…



「い〜の♪いつも頑張ってるかやちゃんにご馳走させてよ!たまには櫂くんに甘えなさ〜い♪」



たまには…って

私は櫂に甘えてばかりなのに…



「お腹すいたからたくさん食べたいよね…。これから中華は?重いかな…?」

『ううん、平気!中華大好き!!』

「決まりだね?」



携帯片手にお店をチョイスして、予約の電話をかける

パチンと携帯を閉じると



「よし!行こうか!!」



私の手を取ると、細くて長いベーシストの指を絡めて手を繋ぐ

櫂は必ず手を繋ぐ…

どれだけの荷物を抱えてても…

たったそれだけの事が私にはすごく嬉しい



「中華だからさ、ターンテーブルをガンガン回しちゃお♪」



さっきみたいにドキドキさせられたりしたかと思うと、こんなふうに子供っぽい一面もあったりして…

毎回違う顔を見せる櫂から目が離せないでいる



『あんまり回し過ぎちゃうと、遠心力かかって大変な事になるよ…』

「クスッ♪そっか!」

















食事をしてる間も櫂は私を退屈させないようにと、気を配ってくれる

疲れちゃうよ…櫂が…





ターンテーブル一杯に並べられた料理に絶句しながらも、結局は食べつくして…

私は動けないくらいになってしまった



「かやちゃん、ホントによく食べたね?」

『う…やっぱり、まずかったかな…』

「何で?俺は何でも美味しそうに食べる女の子大好きだよ?」

『ホントに?』



櫂の様子を伺うように、チラッと目をやる



「ホント。だから、この後は…俺の事も食べてね?」

『うん♪分か…って、えぇっ!…んっ…』



驚きの声を上げる私の口は櫂によって塞がれる

ここは確かに個室で私たち以外は誰もいないけど…

誰か入ってきたら…

そんな私の焦りとは裏腹に、櫂のキスに翻弄される

さっき、今はキスしないなんて言ったくせに…

この小悪魔に振り回されてる…



「約束…♪」



耳元で囁かれた吐息混じりの言葉にも溶けてしまいそうになって



『もう…ずるい…』



精一杯の抵抗の言葉はそれしか出なかった
















また、手を繋いで店を出る



「うわっ!さっみー…」



繋いだ手を櫂のポケットに入れて、まだ肌寒い外気に驚き体を密着させる



「ね?さっきあげた鍵、持ってきた?」

『…?…うん、あるよ…』



バッグを覗いて確認をした



「それで、玄関開けて?」

『…あ…うん…』



思わぬ形の合い鍵デビュー…

これから先、一人の時…

この鍵を使うのかな

ドキドキ…

ワクワクしながら…



「何を考えてるの?百面相してる…」



櫂がちょっと拗ね気味に唇を尖らせる



『え?…な、何も…』

「そんな事言う子には、櫂くんからのお仕置き決定だね!!」



お仕置きと言う言葉が頭の中をグルグルと駆け巡る



「…かや、口開けて…」

『…ゃ……あ……』



ビロードのような柔らかい櫂の舌が私の唇をなぞる

力が抜けてしまいそうになった所に、舌の触れ合う音が耳に触る



「続きは…帰ってから…」







甘い…

甘い…

小悪魔の唇は…媚薬―…‥














-end-

2010.04.08


かや様に捧げます。
12345番ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
かや様のみお持ち帰り可です。

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