KINDAN | ナノ





握ったこの手を離さないで






「そうそう、美花ちゃん…そのままそのまま…」

『あ…きゃっ!!いったーい!』



尻もちをついてしまい、思わずあげてしまった声に回りの人達がクスクスと笑う

もう何度目だろう…

絶対にお尻にアザができてるよ…



「ま〜た、こけちゃったねぇ…ダイジョ〜ブ?」

『…もう、笑わないでよ…』



小さく消えてしまいそうな声で必死に抵抗する



「でもさ、肝心なところで助けたら意味ないでしょ…?」



確かに…

深國くんの言葉には説得力がある



『…深國くんて…いぢわる…』



本気で思ってはない…

ただちょっと言ってみたかっただけ…



「ふ〜ん。じゃ、俺じゃない別の誰かに教えてもらったら〜?」



やっぱり彼は意地悪だ

そんな事を言いながら、絶対に彼にすがると思って余裕の表情で私を覗き込む

なんだか…悔しくて泣けてくるよ…



「美花ちゃ〜ん。どうする?」

『…深國くんが…教えてください…』



ウィンタースポーツの定番の一つ、スケート

冬休みに入る直前に、課外授業の一環として毎年やってるんだって…

それを聞いてから、深國くんにお願いをしてスケートの特訓をしてもらってる



「じゃあ、はい!」



こけた私に優しく手を差し延べてくれる

そっとその手を取ると、男の子の力で私を引き上げあっという間に立たせてくれた



「じゃあ、手…離すよ?」

『待って、ちょっと待って!!』



バランスを取る前に手を離される



『あ…あっ!…やだ!…きゃあ!!』



で、この繰り返し

私って運動音痴じゃないはずなんだけど…

だんだんと気が滅入ってしまう

立ち上がる気力もなくなり、座り込んだまま駄々をこねた子供の様に動かなかった

そんな私の耳に入る声は…



「大丈夫か?…しょうがねぇなぁ…。ほら、手、貸せよ」



高校生カップルの会話…

ぶっきらぼうだけど、優しさが伝わってくる

男の子は頬を赤くしながも、女の子の手を取ると手を繋いだまま滑り出す



――あんな風にしてくれたら…私だって…



ダメだ…

私、子供みたい…



「な〜に〜?美花ちゃん、実はあんな風に滑りたかったとか?」



覗き込まれて、今の私の顔を見られたくなくて思わず背ける



「俺さ〜、意外とヤキモチ妬きなんだよネェ〜」

『…?』



何の関係があるのかさっぱり分からなかった



「美花ちゃんが滑れるようになってくれないと、俺が困るわけ…」

『…???』



益々分からない…



「あのさ?今度の課外授業で美花ちゃんが滑れないのを見越して密着を考えてる奴らがいるって事、知らないでしょ?」



はっ?…密着…?

ほんのり深國くんの頬がピンク色になったようにも見える



「俺と美花ちゃんの事を公表して、皆の前で堂々と手を繋いでもいいんだよ?俺は…。でも、美花ちゃんが困るでしょ?」



そう言って深國くんが私を立たせる



「わかった?」



私の返事を聞かないまま、私の手を取り後ろ向きに滑り出した

引っ張られる形になり、私もゆっくりと滑りだす

でも、すぐにバランスを崩してしまい…



『きゃっ!!』



こけそうになった瞬間…

私は深國くんの腕の中にいて



「密着の意味…わかった?」



彼の顔がすごく近くにあった事にびっくりする



『…う、うん…ごめんなさい…』

「謝らなくてい〜よ♪当日までに滑れるようにならなかったら…俺が美花ちゃんを独占するから」



深國くんには珍しく少年のような笑顔で…



『深國くんのファンに睨まれちゃうよ…』

「大丈夫でしょ?そんな子いないし、いても関係ないし…」



そして、私に耳打ちをした



「美花ちゃんが俺の手を離さないで…」



クスッと微笑む顔は妙に大人びていて…

少年と大人が入り混じったような彼に私は翻弄されている



『深國くんが、私の手を離さないで!』

「もちろん♪」



同じ気持ちだと確かめ合える事がこんなにも気持ちがいいなんて…

彼の手をギュッと握り、心でもう一度呟く



握ったその手を離さないで…

















-end-

2009.12.22


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