KINDAN | ナノ





キス、キス…キス!






「あ、やっと来た!遅ぇぞ、美花!!」

『ごめ〜ん…』



珍しく姫川くんに呼び出された昼休み

いつもは、彼の方が呼び出される事が多いのにね…



『で?どうしたの?』



彼の腰掛けている場所の隣に座ると、私の死角になっていた場所から巾着を取り出す



「…この前、約束したやつ。試作品の毒味!」



数日前に相談されたこと…

好きな女の子に作ったお菓子の毒味役を頼まれた



『あ、できたの?今、食べていい?』

「今食わなかったらいつ食うんだよ…」

『はは…そうだね。じゃ…』



巾着を開け、中からお菓子を取り出す



『あ、可愛い…』



ちゃんと女の子用の小さな一口サイズになっているお菓子は、チョコでコーティングされている



『いただきます♪』

「お、おお…」



緊張した声を隣に聞き、パクッと一口頬張る



『んんんー!っんまい♪』

「本当か?甘すぎないか?」

『へーんへん、はいひょうふ』



口に頬張ったまま喋ってしまい、うまく言葉になっていない

けど、わかるよね?



「ぎゃはははは!お前、何言ってるかわかんねぇよ!!」



あー…はいはい…

でも、ホントにおいしい…

へへっ…もう1個♪



「あ、また食った!」

『ンフフフフ♪』



美味しい物食べると自然に笑顔になる



「ま、いいや。こんな感じで…って事だな…んっ?」



何かに気がついた姫川くんが私の右手に触れた

と、思った瞬間…



私の指についたチョコをペロッと舐めた



『…なっ!!』

「へへっ♪これって美花と間接チューだな!いただきっ!」



か、間接…チュー…?

た、確かに…1個目食べた時、指をペロッて舐めた…

自分が茹でダコみたいに赤くなるのがわかる



「じゃあな!サンキュー♪」



ボー然としている私の横から立ち上がり、走り去る姫川くんをただただ見ているしかなかった

彼に舐められた指を見つめる

え〜と、彼は高校生で…

え〜とえ〜と、キスに憧れがあって…

だから、間接チューで喜んでいるだけで…

きっと好きな女の子にお菓子を渡して、ホントのキスをしたらこんなの何とも思わなくなる

いろんな理由を考えては、さっきの出来事を頭の中から消そうとする

なんでもない事にしなくては…

私は教師なんだから…





まだ口の中に残っていた甘いお菓子に意識を集中させる

うん…やっぱり、おいしい

幸せだ…



「あれ?先生…何してんの?」

『あ、芹沢くん…』



たまたまここを通ったみたい



「そこ…隣、座っていい?」

『どうぞ!もうお昼は食べた?』

「うん、今日は…。ハンバーグ定食2つにうどんとカレー」



相変わらず彼の食欲はすごい

この細身の体のどこに入って行くんだろうといつも思う

もう、彼が苦手としていた箸使いも完璧だし…



「あ…先生、甘い物食べたでしょ?」

『え?…何でわかるの…?』

「……先生って…鈍感だよね…」


私が鈍感?

そう考えている間に…

ホントに一瞬の出来事だった

目の前には色素の薄い…ブラウンの瞳…



『…え?』

「…甘いけど、おいしいね!」



今…芹沢くん…私の口の端を…



「おーい、芹沢!緊急ミーティングだって。行くぞ!!」

「うん、今行く!…じゃあね、先生。あんまりボーッとしてこけないでよ?」

『…う、うん…』



芹沢くんは微笑むと、颯爽と去って行った

彼の行動は、私の口の端を…舐めた…

さっきの…口の端にチョコがついていたんだ

それがわかった瞬間、あまりの恥ずかしさに放心状態になった

芹沢くんは帰国子女で、こんな事はきっと日常茶飯事なんだ…

でも…

恥ずかしい…

姫川くんといい、芹沢くんといい…

あー!!もう!!



















今日の午後の授業がなくて良かった

あんな事の後に、どんな顔して授業すればいいのよ

私にだって、それなりの経験はある

でも…

不意打ちは…どうしていいかわかんないよ…

研究室で一人悩んでいると



コンコン…



『は、はい!』



今は授業中のはずだから…先生方の誰かかな…?

そう思っていると、中に入ってきたのは…

小早川くんで…



『ど…どうしたの?今、授業中でしょ?』



彼に限っては、授業をさぼるなんて考えられない



「中に…入っていいか?」

『うん…どうぞ…』



思いつめた表情の彼は、ずっと下を向いていて



「………」



何も話さない…話そうとしない…



『…小早川くん?…具合でも悪い?…きゃっ!』



いきなり腕を掴まれたかと思うと、小早川くんの腕の中にいて…



『ち、ちょっと…』

「…さっき…芹沢に…」

『あ、あれは…』

「口の端を舐められてた…」



なんだ…全部、見てたんじゃない…

って、何を安心してんの?…私…



「…先生。俺、先生の事好きだ…」

『!!』



何…?

頭の奥に霞がかかったみたいで、今…何を言われたのか、よくわからない…



「ライバルがたくさんいる。…俺に勝ち目がないのもわかってる…」

『…え…っと。…ごめん、よくわかんないんだけど…』



落ち着いて考えようと思うのに、何から取り掛かっていいのか分からず混乱している

小早川くんの腕の中にいる事さえ、今の私には混乱の一つの要因になっているのに…



「…先生は…俺の事、嫌いか?」

『ま、まさか!…嫌いなんて事は…ない…』



背の高い上からの声に、生徒だという事を一瞬忘れてしまった



「…このまま俺の事、好きになってくれ…」

『えっ?』



小早川くんらしくないその言動に驚き、思わず顔をあげた



チュッ…



唇に感じる彼の体温

強引にされているはずでもないのに、彼を拒絶してない自分にも驚いた

優しい…優しいキス…

小早川くんらしい…



「お、俺!」



唇が離れると、いきなり我に返った彼が私の体を離す



「…すまない…」



顔を真っ赤にした彼は、一言を残して研究室を去って行った

廊下からバタバタという音が小さくなっていくのを聞きながら、そっと唇に触れた

3人の生徒とのキス…

姫川くんにされた指先の間接キス

芹沢くんに口の端を舐められたキス

小早川くんとの…キス…




この日を境に、私と生徒たちとの関係が大きく変わろうとしていた



















-end-
補足:続きません(笑)

2010.02.14


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