KINDAN | ナノ





夏空








静かな雨の午後

プラットホームに貴女と並んで電車を待つ



『緒方くん、素敵なスピーチだったわ。担任として鼻が高い!』



笑顔の貴女は、眩しくてキラキラしている



「予め原稿を作成しているんです。あまり声を荒げて、恥ずかしい事を言わないでください」



ただの照れ隠しですが…

また、貴女にキツイ言葉で接してしまう…



『ん〜…でもね?原稿があったって、発音もスピーチ内容もパーフェクトだったから…』



わかってますよ

貴女の言いたい事は…

メガネを押し上げながら



「ありがとうございます…」



聞こえるか聞こえないくらいの小さな声でそう言うと、途端に口角を上げ、目が細くなる

私がその表情に弱いなんて、貴女は知るはずもなく

そんな貴女をこの腕の中に閉じ込めてしまいたくなるんです

誰にも話せない恋だから

誰にも譲れない恋だから

素直に貴女に胸の内を伝える事も出来なくなってるんですよ…



『…あ…』



彼女のフッと漏らした言葉にさえ反応してしまうんです



「雨、止みましたね…」



貴女と同じ時間、同じ場所、そして同じ事に気がつく事に喜びを感じ

そして、貴女とずっと一緒にいたいと私は願ってしまっているんです










雲の切れ間から太陽の光りが射しこみ、一気に気温が上昇を始める

肌に汗が滲んできて、ポケットからハンカチを取り出すと…

貴女の表情が一気に変わっていって…



「どう…したんですか…?」

『緒方くん、ほらっ!!』



ホームから見える海岸通り

その向こうには水平線が広がっていて…

海には七色に輝く虹がかかっていた



「海にかかる虹は…初めて見ました…」

『うん…私も…』



瞳を輝かせて、私よりも子供の表情をして…

まったく…

貴女は見ていて飽きない



「どうして虹が出来るか知っていますか?」



『…たしか、光の屈折で…だったかな…』

「正確です。つまりは、虹に含まれる色は空気中のどこでも見る事は可能なんです。空も七色になるんですよ。時間帯によって、空の色が変わるでしょう?」

『じゃあ、緑の空もあるの…?』

「あると言われています。夜明け前は紫に近いですし、夕方になるとオレンジから赤になるでしょう?太陽の光が強い時間帯に緑の空になっているだろうと思われますから…」



パラパラパラ…



『あ…また…』



辺りは陽が射してきた所にまた雨が降ってきた



『キツネの嫁入りね…』

「…そんな言葉を知っているなんて思いませんでした…」

『私だってそのくらいは知ってます!』



ムキになるその顔…

私を煽っているとしか思えませんね…



「はいはい…」



まるで子供をあやすように声をかけると、プイッと顔を背けて…

ハァ〜ッと息を吐いたかと思うとこちらを向き、笑顔で



『子供みたいね、私…大人げない…』



そのコロコロと変わる百面相にドキリと心臓が音を立てるんです



「…いえ…私の方こそ…」



再びメガネを指で押し上げて…

貴女に赤くなった顔を見られないように隠すしかないんです













ホームに響き渡る音に電車の到着を知り

もう少し貴女と話をしていたかったと心が呟く…

私が貴女を独占できた束の間の時間…



『緒方くん…』



呼ばれて貴女の方を振り向けば…



カシャッ



「え…?」

『えへへ…撮っちゃった。緒方くんと虹♪』



その小さな機械の中に私は虹と共に納まったのですね…



『これから虹を見る度に空の色の話を思い出すんだろうなぁ…』



怒れないじゃないですか…

まったく…貴女という人は…



「ホントに思い出すんですか?…信憑性に欠けますね…」

『ひどーい!』



笑いながらそう言う貴女の笑顔に、私の心のシャッターをおろすんです

もちろん…虹をバックに…



















-end-

2010.07.10


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