KINDAN | ナノ





叶わないアキの想い







人を好きになるって…切なくて苦しい…

その人と目が合っただけで胸が苦しくなるのに何も出来ない…

もし、好きな人が苦しんでいたら――…

とても…辛い…























キャンパス内は銀杏が色づき、一面に黄色の絨毯を敷き詰めている

この季節が来ると、いつも思い出してしまう

目を閉じたら甦る彼女の声…

笑顔…

そして…彼女の…涙…

バックには、黄色の絨毯






















新任教師として赴任してきた彼女が問題児ばかりのクラスを任された

担任を掌で転がすつもりが…彼女のペースに巻き込まれて、いつの間にかクラス中が彼女の不思議な魅力に引き込まれていく

俺は…

教室ではない場所からそんな彼女や皆を見ていた

あの輪の中に入りたかったわけじゃない

だけど…

目が離せなかった















「深國くんてさ…美花先生の事、好きだよね?」

「俺が…?あんなに鈍くさくて、英語教師のくせに発音もまともに出来ないんだよ〜?有り得ないでしょう…」



ののちゃん…

いくらなんでもそれはないよ〜



「ふふ♪よく見てるんだね、先生の事。深國くんて意外と顔に出てるよ…」



顔に…出る…?



「あ、美花先生だ!」



階段の踊場から見える中庭を美花ちゃんが資料をたくさん抱えて通るのをよく見かける

あんなにいろんな物を抱えて、あんな所を通ったら…



「あ…プリントが…」



案の定、紙が風に舞う…



「深國くん、行こっ!」



背中を押されてののちゃんと中庭へ



『キャー!飛んじゃう…』

「先生ー!集めるの手伝うよ♪」



全く…

ホントに鈍くさいよねぇ

仕方なくプリントを集めて、最後の1枚を美花ちゃんに渡す



『野々原くん、深國くん…ありがとう♪助かっちゃった』



満面の笑みを浮かべて…

その笑顔でクラスの連中を手玉に取ったのか?



「別にぃ〜。ののちゃんに連れて来られただけだし〜♪」



右手をヒラヒラさせて、二人に背を向ける

なんか…

胸の奥が苦しくて…

この感情がなんなのか、気がついていなかった



















茹だるような暑さと夏休みが終わって秋になり、学校行事が続いていた頃…

彼女は、クラス行事に張り切って校内を走り回ってた

コロコロと表情を変えて…

彼女の視線の先に何があって、感情が揺らいでいるのかも見えた



そして…



彼女に恋をしている自分に気がついた

ののちゃん…意外と鋭かったね

でも…



この恋は報われる事はないんだよ

彼女は…別の男に恋をしてるから…



それは…ののちゃんだから…

ののちゃんの姿を目で追って、ののちゃんの表情と同じになり、ののちゃんと一緒にいると…

女の顔になる



いつからだったんだろう…

プリントを拾ったあの日…?

もしそうだったら、あの場に残ったののちゃんと立ち去った俺…

ほんの小さな事で、大きな差が生まれてしまった



後悔…?

してるのかも…ね…























銀杏が黄色い絨毯を敷き詰めて、そろそろ冬の季節に変わろうとした時、先を歩く美花ちゃんを見かけた

様子がおかしい…

足早に歩く彼女から零れた…雫…


泣いている…


咄嗟にそう感じ、美花ちゃんを追いかけた



「美花ちゃん、ど〜したの?」



俺のかけた声にビクッと体を震わせる…



『…み、深國くんこそ…ど…して?』



やっぱり…泣いてる…

俺に悟られまいとして、顔を上げてくれない


いいよ…だったら…


彼女の腕を掴み、俺の胸に顔を埋めさせた



「何も聞かないからさ…誰も美花ちゃんだとわからないから…」



泣いていいよ…



そう告げようと思って、言葉を飲み込んだ



『やだ…深國くん…何するの…?』



俺の体に両手を目一杯伸ばして

俺から…離れた…



「…何で泣いてんの…何で頼ってくれない……何で……ののちゃ…」



言うつもりのなかった言葉に我に返る…



『…な…んで…知って…』



美花ちゃんの顔が一気に赤くなり

彼女は何も言わず、俺の前から走っていなくなった

俺は…

追いかけられないまま、その場に立ちつくしていた…


















何で泣いていたのか…

それは、今でも謎だけど

いつも笑顔しか見せてなかった美花ちゃんの違う一面を見せられた










知ってるんだ…

ののちゃんと付き合いだした事…

何にも言ってくれないけどね、ののちゃんは…

ただ、ののちゃんの笑顔の向こうに美花ちゃんの幸せに笑ってる顔が見える











好きな人が苦しんでいたら――…

とても…辛い…






今、幸せですか?





















-end-

2010.09.17

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