KINDAN | ナノ





voyage-絆を結んで








修学旅行の定番、京都、奈良…

私も好きな場所…なんだけど…

英語教師だけど、だからこそ…日本の文化とか、歴史とか…実は大好きなのに…

なんで?どうして?

私は…監視で同じ場所から動けないの?

がっくりとうなだれる私を横目に、生徒たちがポツポツとこの場所を訪れる





この学校の修学旅行は班行動…

事前に班ごとにルートを決めさせて、それを学校に提出…

先生たちと協議をしてそれぞれの班のルートを決定

私たち教師はそれぞれ担当のポイントに立って生徒たちが来るのを待っている

生徒が来ると、班員を確認し生徒たちが持っているカードに押印をする

それぞれの班で事前に建造物を調べるなどの下調べもする

移動は生徒だけでする…

たしかに…ただ、バスに乗ってグルッと指定された場所を回るよりも楽しい、忘れられない修学旅行になるわよ

生徒のことを考えたら…私が1日中、ここに立ってるのなんて…

心の中の葛藤と戦いながら次々にやってくる生徒に点呼と押印を繰り返していた



――後は…うちのクラスの…



その時、一瞬目の前が真っ暗になり自分が倒れるのがわかった



――あ…私はこのまま…倒れ…るの…?



まるでスローモーションのような感覚…



「あぶない!!」

『!!!』



聞き覚えのある声に、ハッとした時…

私は誰かに肩を掴まれていた



「センセ!美花センセ!!大丈夫?」

『あ、彩木くん…ありがと…ちょっと目眩がしただけ…』



こんな細い体のどこにこんな力があるんだろうと思うくらい、私は彼に支えられていた



「とりあえず、日陰に移動しましょう。彩木くん…お願いします…」



――この声…緒方くん…



そう思っている間に、私は彩木くんに抱えられて日陰へと移動した

なんとなく、朦朧とした意識の中で覚えているのは…

テキパキと事をこなす緒方くんの姿と、今にも泣き出してしまいそうな彩木くんの表情…

私は今の自分の精一杯で彩木くんに、大丈夫と伝えた



















ふと気がつくと、私はホテルのベットの中だった

おでこには冷却シートを貼られて…

私の視界一杯に顔、顔、顔…



「あ、目を覚ましましたね…」

「もう、大丈夫ね?」

『…あ…あの…』



緒方くんと篠崎先生の顔が安堵の表情へと変わった

だけど…彩木くんだけは、唇を噛み締めて眉間にシワを寄せて…



「軽い熱中症だけど、緒方くんと彩木くんの対応のおかげでこれだけですんだんですよ。」

『すみません…気をつけていたんですが…緒方くん、彩木くん、ありがとう…』



緒方くんはほんの少しだけ笑みをこぼすと、無言で眼鏡を押し上げた

だけど…彩木くんは、表情も変わらないし…何も言ってくれない…



━━怒って…る…?



篠崎先生が緒方くんを連れて退室した

2人が出て行ったのが合図となって、彩木くんの口が動いた



「…びっくり…したんだよ?目の前で、体が沈んでいって…俺…俺…」



唇が切れるんじゃないかと思うくらい強い力で、彼は自分の唇を噛み締めていた

私は咄嗟に起き上がると、彼を抱きしめていた



『ごめん…ごめんなさい…彩木くん、心配かけて…』



彼がそっと私の背中に腕をまわして



「センセ…寝てないと…」



と、私をベットに戻す…



「全然、怒ってないよ?心配しすぎただけ…」



いつもの彼の笑顔だった

高校生の彼にどれほどの心配をかけたの…?

目の前で人が沈んでいくのを見るなんて…計り知れない恐怖だったと思う…

それなのに…彼は私に笑ってくれる



「僕が子守唄でも唄おうかな…」



そう言って私に微笑む彼は、私には天使にしか見えなくて…



「じゃあ、せっかくだから洋楽でも…〜♪」



彩木くんの声って不思議…

どんどん気持ちが落ち着いてきて、私はそのまま眠ってしまった

















結局、私は次の日の監視からは外れて、ホテルにて休養を取ることになった

時間がたたないし、つまらないなぁ…

でも、結局は寝る事しかできなくて…とりあえず、時間を潰していた








夕方になった頃、ドアをノックする音に反応してドアを開けると…



『彩木くん…もう、帰ってきたの?』

「うん、お土産があって…美花センセに渡したくて…」



彼はここまで全力で走ってきたみたく、肩で息をしていた



『と、とりあえず中に入って…』



彩木くんを部屋に入れる



「美花センセ…はい、これ…」



彼が差し出してくれたのは巾着袋…



『これは?』

「僕たちの班、今日は機織り体験してきたんだ。これね、僕が織ったんだよ。それを巾着にしてもらったの」



キラキラとした笑顔で、彼は今日の話をする



「センセ、いつか僕と2人でここにまた来よう?この巾着はその約束の証…」

『彩木くん…』

「ねっ?いいでしょ?2人で来た時は、センセが織ったもので僕に何かプレゼントして?」



彼の優しさをたくさん感じて、涙がとまらなかった



『ありがと…彩木くん…』

「センセ…泣かないで…センセにとっては、思い出も何もない旅行だったかもしれないけど…」



寂しそうな顔をさせてしまった



『思い出なら、たくさんできたし…次に繋がる約束も…今度は2人で来ようね?』



止まらない涙を拭いながら、笑って彼に伝えたつもりだったけど、ちゃんと伝わったかな?

ハの字になった彼の眉の形が変わっていく…



「うん!今度は…必ず2人で…」



満面の笑みで私に微笑んでくれた彼…



「美花センセ!薬指をこうして?」



彼は自分の薬指を唇にあてた

私もマネをしてやってみる



「そして…交換…」



その薬指を私の唇につけた



「センセ?」



言われるまま、私の薬指を彼の唇につけた

指から伝わる彼の熱…

間接キスにドキドキする…なぜって…彼が、ずっと私を見つめているから…

そっと指を唇から離すと、彩木くんはその指にキスをおとす

私も同じようにすると



「僕と美花センセだけの、指切り…ね?」



その日から私たちの指切りは、指から唇に…唇から指に伝えられるようになった

小指ではなく…薬指で…


















美花センセ…

エネルギッシュで、僕が今まで出会ったどの女の人よりも印象的で…

恋をしかけるのに、これほど勇気がいるのかと痛感させられたんだ

貴女の視界に自分がいる事でさえ、幸せだよ…

今度は…必ず、2人で…














-end-

2009.05.

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