voyage-絆を結んで- typeA
『ぎゃあああああ!!どいて!どいてぇぇぇぇぇ!!!』
世間一般の修学旅行といえば…海外だったり、古都見学だったり…
それなのに…何でこの学校は…スキーなの?
体を動かすのは決して嫌いではないけど…
スキーに関しては、初めてで…って、そんな悠長な事考えている場合じゃなくて…
『いやぁぁぁ…誰か!止めてぇぇぇ』
そう叫んだ瞬間、私はバランスを崩すとまだ柔らかい雪の上に転がっていた
『いたた…』
なんとかスキー板から足を外し起き上がる事ができた
「プククッ」
「あはは…やだぁ〜」
周りの声も耳に入っている…恥ずかしい…
「あ〜あ…美花ちゃん、派手にやっちゃったねぇ」
『あっ…ありがとう…』
その声の主は、私に手を差し延べてくれる
「しっかし、すごい声だったねぇ。ここ、初心者コースだよ…」
初日の午前中、初心者コースで基本を学んでいるはずなのに…
私はどうも、その基本からダメみたい
生徒たちは10人〜12人位の班に別れて、1人のインストラクターに教えてもらっている
そして、なぜか私たち教師も一緒になってスキーをしている
ほかの先生たちは、いいわよね…毎年来てる人もいるし、何年かに一度来てる人もいるし…
私は…今年初めてなのよー!!
『深國くん、貴方の班は?』
声の主に尋ねると、
「みんなちゃんとやってるよ〜♪俺は、上級者コースでも行けるからさ〜」
――じ、上級者…ですか…
そんなやり取りをしていると、
「大丈夫ですか?先生…」
『は、はい…どうもすみません…』
私たち教師のインストラクターをしている方が私を心配してやってきた
深國くんの表情が一瞬だけ変わった気がした
「じゃねぇ、美花ちゃん。頑張って」
深國くんはそう言い残して、自分の班へと戻って行った
「彼は…かなり上手いですね…」
インストラクターはそう言いながら戻っていく深國くんを見ていた
――深國くんって何でもできるのね…
少しだけ彼との距離を感じてしまって、寂しいと思いながらも、感じた距離を埋めないと…
なんて思っている私を深國くんが見ているなんて思ってもなかった
夕方になり、旅館に戻ってウエアを脱ぐ…
――たくさんこけたなぁ…
なんて思いながら、おもむろに足をさすった
「な〜に?美花ちゃん、足痛いの〜?」
『深國くん…痛くはないんだけど…かなりこけたから…』
「美花ちゃんは、重心が後ろにかかっているから…知らず知らずのうちにスピード出ちゃって正しいこけ方できないんだよ」
――何度もインストラクターから聞いたよ…それ…
「怖くても重心を前に置いて、止まる時も…ちゃんと止まれるからさ」
そう言うと、深國くんはヒラヒラと手の平を返して部屋へと戻って行った
なんでかな…彼の言葉だとすんなり受け入れられる
私は、よしっと気合いを入れて旅館の人たちが片付けてる手伝いをした
昨日、深國くんから聞いた事を頭に置いてすべってみる…
『…あっ…止まった…』
あれだけインストラクターに言われてもできなかった事が、なぜか一発でできた
――深國くんのおかげだな…
心の中で、ありがとうと呟いた私は、その日みるみる上達していった
なぜか、その日は深國くんの班とは全然会えなくて…
滑れるようになった喜びとはちがった寂しさが込み上げていた
――ダメダメ!私は引率で来てるのに…
そう思った時…
「美花ちゃ〜ん♪」
私を呼ぶその声に反応した
「この格好だと寒いだろうから…ちょっとこっち…」
深國くんに強引に連れて来られたのは…旅館の用具室…
そこから、適当なスキーウェアを取り出し渡された
「急いでこれ着て…」
私の頭の中の?マークなんて、彼はお構いなし…
外に通ずる扉を開ける
「寒いからね〜。これ被って…」
そしてニットキャップを被される
外は確かに寒かったけど、風がなくて…ただ静かに雪が降っていた
「美花ちゃん、こっちだよ♪」
少しだけ積もった雪の上を歩くと、ギュッギュッと雪が固められていく音がする
雪を踏んだ時の感触と、その音に私の心は穏やかになっていた
フッと顔をあげると…私の前を歩いていた深國くんの姿がなかった
『あ、あれ?深國くん?…深國くん?』
どんどん心細くなっていく
その時…
「美花ちゃんは、俺がいないとそんな顔しちゃうんだー?」
後ろからの彼の声にうれしくなり振り向こうとした時、私は後ろから彼に抱きしめられていた
『…深國くん…だ、誰か来ちゃうよ…』
「ずーっと我慢してたんだから…少し、充電させて…」
彼の声と息が私の頬にかかる
ウェア越しでも彼の体が冷えているのがわかった
『ね、深國くん…何でこんなに冷えてるの?』
「美花ちゃんにしては鋭いね〜…あれ、作ってた」
そう言った彼の視線の先には、2つの雪だるま…
「ちゃんと、知ってるよ〜。美花ちゃんが滑れるようになった事…ちゃんと見てたからね〜」
私の手を取り、雪だるまの近くまで促した深國くんの手は、とても冷たかった
『かわいい…あっ!携帯持ってくればよかった…』
「フフッ♪そう言うだろうと思って、ちゃんと撮ってるよ〜」
私の目の前で自分の携帯をヒラヒラさせる
私はその手を取って、両手で包み…はぁ〜っと息をかけた
『手が真っ赤になってる…ありがとう…深國くん♪』
「ばれちゃったの?俺、ダサイね…美花ちゃんの前では常にカッコイイ男でいたいんだけどね〜」
『…カッコイイよ…深國くん…ううん、明彦は…』
その時、初めて彼の下の名前を呼んだ
私の顔、みっともないくらい赤かっただろうな…
「な〜に?一人で携帯見てニヤニヤしてんの?や〜らし♪」
屋上で初夏のさわやかな風を浴びながら…
携帯の待受を眺めていると…私を覗き込みながら、明彦が笑っていた
『いいじゃない!ちょっと思い出していただけだよ…』
まだ付き合い始めだった私たちの…最初の思い出…
それは、私と貴方の待受に今でも飾られている…
-end-
∴typeAは明彦のAです(〃∀〃)
2009.05.
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