My Place
「美花♪はい、これ」
そう言って彼が差し出したのはライブのチケット…
「タイバンだからチケット捌くの楽じゃないけど…美花には僕からプレゼント♪」
『プレゼントって…ちゃんと払うわよ…』
私はチケットを覗きこみ、金額を確認しようとした
「もう、わかってないなぁ…美花は…。彼氏が彼女にプレゼントなんて当たり前でしょ?」
『あ…そっか、ごめんね…』
「まだ、僕のこと…彼氏と思ってない?」
『そんなことないよ…私で役に立てるならと思っただけで…ありがとう』
私がそう言ってにっこりと微笑むと、彼も満面の笑みで応えてくれる
彼と付き合い出してまだ間もない…
年下の彼と付き合うことになり、私の方が大人なのだから…
なんて考えを張り巡らせるていると、敏感な彼はすぐに察知する
いつもは学園の講堂でライブをすることが多い彼だけど、他校にもやっぱりファンはいて…
最近はライブハウスでの活動も増えてきていた
チケットを捌くのは大変そう…
だけど…楽しんでやっている彼を見るのが好き…
彼の夢の手伝いができれば…なんていつも考えている自分がいる
私は…彼の…嵐士の…役に立てているのかな…
ライブ当日…
私は嵐士に言われたとおり、スタッフの人がいる照明ブースからライブを見る事になった
学校の生徒も多く来ているからで、混乱を避けるために裏口から入る…
スタッフの人も把握していたようで、すんなりと中に入れた
嵐士の出番は2組目…
なんだかドキドキしていて、他のバンドの音もさっぱり耳に残らない
どのくらい待っていたのかな…
最初のバンドがステージを去って、暗転…そして、ステージが再び明るくなると、嵐士たちが出てきた
いつもとは違う彼の生き生きとした表情に、私もつられてうれしくなる
今日も最初から、ノリのいい曲でスタートしお客さんも最高にいい感じ…
私も自然に体がリズムを刻んでいた
5曲をノンストップで唄い、嵐士が客席に向かって話を始めた
「みんな、ありがとう♪次の曲は、僕らのオリジナルで…今回は僕が、曲と詞を書いたんだけど…初のラブソングを…」
――えっ?ラブソング?
そう思っている間に、嵐士はセットされたピアノに腰掛ける
ピアノを弾ける事は知っている…
でも、実際に彼が弾いている姿を見るのは初めてだった
とても綺麗な旋律に彼の声が合わさる…
![](//static.nanos.jp/upload/e/exe0927loft/mtr/0/0/201102172137427.jpg)
時々嵐士は私がいるブースを見上げて…
後は鍵盤を見ているか、目を閉じて唄っていた
この歌を唄っている彼はとても奇麗で…
私の耳は、嵐士の奏でる旋律と歌…歌詞に引き込まれ…
私の目は、そんな彼でいっぱいになっていた
嵐士の手が鍵盤から離れると、私の目から大粒の涙が零れ落ちた…
――嵐士…嵐士…
心の中で何度も彼の名前を呼んでいた
客席からの声援に応えている嵐士がとても大きく見えて…
嵐士の想いがどんどん私の中に染み込んできた
この後、嵐士たちは2曲を唄いステージを降りた
すぐに嵐士の元に駆け付けたい衝動を抑えて、私はまた裏口から出ると嵐士にメールを打った
しばらく待っていると、嵐士が飛び出してきた
パパッ♪
クラクションを鳴らすと彼はこちらに気づき、走って乗り込んできた
「出して!早く!!」
『は、はい!!』
すぐに察しがついた…ファンに追いかけられているんだと…
急いで車を発進させてその場を離れた
「よかった…美花が車の運転できるなんて、ちょっと意外だったけど、助かったよ…」
『ちょっと…意外は、余計だよ』
「フフッ♪今からどうするの?」
『うん…定番で悪いけど、夕食の準備もほぼできてるから…うちで、いい?』
「やったぁ!美花のご飯大好き♪」
運転中で嵐士の表情は見えないけど、彼がどんな顔して喜んでいるのか、手に取るようにわかる
私は安全運転を心がけながらも、逸る気持ちを抑えつつ車を走らせた
「車って便利だよね?僕も18歳になったら免許とりに……んっ?美花?」
私の部屋に入ってすぐに話し出した彼の後ろから…抱きしめた
「どうしたの?甘えてくる美花って…珍しいね…」
優しい彼の問いかけ…
『嵐士…今日唄ったあの歌…』
「うん…僕の初めてを美花にプレゼント!僕の気持ちは…全部、歌詞にこめたよ…」
『…嵐士…嵐士…あら…し…』
何度も何度も、彼の名前を呼んだ…
「何?ホントに今日の美花は…」
そう言って彼は振り向くと、私を見るなり驚いていた
そう…びっくりするよね…私…泣いているんだもん
涙が止まらないんだもん…
『うれし…涙…だから…ね…』
私を見て最初はびっくりしていた彼だけど、すぐににっこりと微笑んで私の涙を拭ってくれた
そして…正面から私を抱きしめてくれて…
「いつも頑張ってるよね…美花は!…でもね…僕はまだ学生で、成人もしてない子供だけど…たまには…僕の事、頼ってほしいな……美花の事は、全力で守るから…」
額に入れて、胸の真ん中に一生飾っておきたいような台詞だった
どんなに辛い時でもそれを見れば勇気を取り戻せる賞状のように…
「世界中の誰よりも…大好きだよ、美花♪」
『嵐士…私も…世界中の誰よりも、嵐士の事が大好き…私を、守ってね?』
「うん!」
嵐士が初めて作ったラブソングを口ずさんだ
『この曲のタイトルってなんて言うの?』
そう言うと嵐士は私の耳元で囁き、私たちは唇を重ねた…
私の居場所は…嵐士の隣…
嵐士の居場所は…私の隣…
MY PLACE…
![](//static.nanos.jp/upload/e/exe0927loft/mtr/0/0/201102172137428.jpg)
-end-
Special Thanks ナツ
2009.05.05
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