MUSICIAN | ナノ





キミとボクのキスをしよう







「もう、いい…」



そう言うと、彼は大きな音を立てて部屋を出て行った

瑠禾を怒らせてしまった

何であんなこと言ったのか…もう後悔してる

私が意地を張ると、瑠禾も意地を張る

わかっていた事なのに…

頭のいい瑠禾は、いつも先を考えて動いて…

言いなりみたいになっている自分が許せなくて…

でも、すぐに後悔してる自分に気がつき、自己嫌悪…

完全に怒らせてしまった今の瑠禾に何を言っても…ダメ…

仲直りの方法なんて私にはわからないけど…

瑠禾の側にいたい…

でも、瑠禾はどうなんだろう…

私の顔も見たくないくらい怒っていたら、逆効果かも…

彼のマンションのリビングで一人そんな事を悩む…





瑠禾は…

きっと寝室に行ったんだろうな…

いつもなら抱き枕がいるからって私を呼ぶけど、今日は…それもないよね…

どう動いていいか分からず、途方に暮れる



……今日は、帰ろう……



そう思って、リビングを出た

ピアノを置いているスタジオを小さな小窓から覗いても、やっぱり瑠禾はいない

やっぱり、寝室なんだ…

私抜きで瑠禾は寝ちゃったんだ…

そんな事ばかりを考えていたからなのか、気がつかないうちに涙が零れていた

後悔ばかりが襲ってくる



――瑠禾…ごめん…



『…ごめんなさ…い…』



心の中で呟いていた言葉が声になって洩れた

どんなに願っても開かないドアを横目に重たい足を玄関へと向けた



「…帰るの…?」



後ろからの声にヒヤリと背筋が凍る感触に襲われる



「今帰ったら、俺達終わりだと思わない?」



ゆっくりと声のする方へ振り返ると、ドアを開け腕を組んでこちらを睨んでる瑠禾と目が合う

でも、その瑠禾の表情は、私の涙を見た瞬間に崩れた



ホントに…一瞬の出来事…

あっという間に、私は瑠禾の腕の中にいて…



『…瑠禾…』

「いいの?…終わりになっても。俺は、やだ…」



胸が締め付けられた



















同じシーツに包まって、瑠禾は真っ直ぐな目で私を見つめる



「…もう、泣き止んだ…?」

『…うん…ごめんなさい…』



大きく息を吸い込んだと思ったら



「目、そらしちゃダメ…俺だけ見てて。そしたら、俺もこうして…何もかもを忘れて美花だけ、見つめていられるから…」



すごく真剣な目…

この吸い込まれそうな漆黒の瞳から目が離せない

そっと、彼の髪をかきあげた

瑠禾がその大きな目を瞑る

すごくきれいなその顔に見とれていると…

なんだかキスをしたくなって、考えるより先に体が動いていた

軽い触れるだけのキスをチュッと落とすと、瑠禾の目が開いた



「…もっと…」



キスを強請るその言葉に全身が震える

たったその一言で私の瑠禾への気持ちも、瑠禾の気持ちもすべてわかってしまったような…そんな感覚…



少しだけ開いた瑠禾の目を見ながら、何度も啄むようなキスをする

キスをする度に、瑠禾への好きがどんどん大きくなっていく

何故だか、自然と涙が溢れて来た



「…美花?」

『ごめん…瑠禾とのキスがすごく幸せで…』



微笑んだ彼が涙を指で拭ってくれる



「…悲しい涙じゃないなら…いいよ、泣いても…」



その言葉にまた涙が溢れてくる



「ねぇ。俺と美花は別の人間…だから、意見が食い違う事だってこれからたくさんある。でも、その時は…逃げないで…たくさん話をしよう…?どれだけの時間がかかってもいいから…」

『…うん。ゆっくりでも、わかりあいたい…』

「俺が自分の親としてこなかった事。美花とはちゃんとしていきたいから…」



瑠禾がしてくれる優しいキス…

彼の想いも一緒に私の中に流れ込んでくる

きっとさっき部屋を出て行った瑠禾は、頭を冷やしに…

冷静になる時間を取りに行ったんだ…

私もあの時間があったから、自分自身を見つめる事ができた



「…美花…好きだよ…」

『瑠禾…私も…好き…』



鼻先を擦り合わせて、フフッと笑いあう

「美花…キミと俺の…キスをしよう…?」


















-end-

2010.02.11


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