笑う君の隣で
なぁ、覚えているか?
俺達が初めてケンカした日の事…
あれから何年経ったかな
小さな小さな
俺達だけの記念日…
『あ、雅楽!』
待ち合わせの小さな喫茶店で先に来ていた俺は、美花の到着を待ち右手を上げて応える
『…ごめん。仕事がおしちゃって…』
息を弾ませながら向かいの席に座り
ここに急いで来たんだとすぐにわかる
「いいよ。コケなかったか?お前、鈍くさいから」
『もう、鈍くさいは言いすぎじゃない?』
被っていたニット帽を脱ぐと、手グシで髪を整える
マスターに飲み物を注文し、頬杖をして俺を真っすぐに見る
「な、なんだよ…」
『気がついてた?去年の今日もここで待ち合わせしたんだよ…私たち…』
知ってるよ…
俺がそう仕組んだからな…
『一昨年もここに来たの…』
ヤベエー…今、コイツの顔見れねぇ…
鈍くさいくせに、結構鋭いんだよな…
ここは俺にとって思い出の場所で、毎年この日は特別なんだよ
「…初めてここに来た日の事、覚えてるか?」
話を急に振られて驚いた顔してキョトンとしてる
ただでさえでっかい眼をもっと大きく開いて…
でも、すぐにフッと目が細くなり俺の好きな笑みをこぼす
『うん♪…覚えてるよ。私と雅楽、ケンカしてここに来たんだ…』
そう…俺達は気分が最悪の状態でここに来た
何を頼んでも、味がしなかった
美花と一緒ならどんな物でも美味しく感じる事が出来ていたのに…
小さな握り拳が膝の上でプルプルと震えて…
真っ赤な顔をして涙を堪えてる美花の顔は今でも忘れない
「あの時、マスターが淹れてくれた珈琲が忘れられなくて…」
美花の顔を見れなくて、特に砂糖を入れたわけでもない珈琲にスプーンを落としグルグルとかき混ぜる
彼女は砂糖を入れ、ミルクを落とし俺と同じ行動を取る
『…うん。あの時…タイミングよくというか、悪くというか…。マスターがサービスだからって言って珈琲を出してくれたんだよね?私、苦手だけど…マスターの淹れてくれた珈琲は飲めるの…』
この珈琲のおかげで、俺達は冷静に話をして仲直りもできた
黙っていた美花の本音も聞く事ができた
俺にとっては…記念日…
『…私ね…?』
「ああ…」
『どこかで雅楽に遠慮してた。…言いたい事も言わずに、私が黙ってたら丸く収まるんだって思ってた…。でも、あの時から変わるようにしたの…。ちゃんと伝えないと伝わらないって…』
うん…そうだよな…
俺もそう思う…
やみくもに喚いたって伝わらない…
俺は美花とは反対に人の話を聞かないと、お互いに近づけないって思ったんだ
俺が勝手に記念日だって思ったその日は…
今年から二人の記念日になった
「また、来ます…二人で…」
マスターに声をかけて店を出た
いつの間にか日が暮れて、吐く息も白い…
美花の手を取って、俺のポケットに突っ込む
「…俺、今日を大事にしたいんだ…」
『…うん…』
人として成長できた日だから…
2年前のあの日から成長出来てたらいいな…
俺だけじゃなく、美花と二人で…
『雅楽!』
不意に呼ばれて美花の方を向けば、彼女のぬくもりと柔らかさを唇に感じた
ホンの一瞬の出来事で…
目を暝る事も出来なかった
視界一杯に広がる美花の照れた顔…
「おまっ!…不意打ちは卑怯だぞ!」
頭と顔が熱くなって、わけわかんねぇ…
『…怒っ…た…?』
不安そうに覗いてくる彼女の頬を両手で包み込み…
![](//static.nanos.jp/upload/e/exe0927loft/mtr/0/0/201102172137429.jpg)
「…怒って…ない…」
おでこを合わせて、二人して照れ笑いする…
俺を最大限に機嫌悪くさせるのも、機嫌良くさせるのも…コイツだけだ…
これからこの小さな記念日を二人で毎年過ごそうな…
誰も知らない
二人だけの特別な日…
これからもよろしくな…
-end-
title : 空想アリア様
描き隊:ひろ
書き隊:幸
2010.11.02
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