MUSICIAN | ナノ





7月7日-七夕の奇跡





1年に1度の七夕
織り姫は彦星様に逢うために天の川へ向かいます
貴女は誰に逢いに行きますか?










5月から始まった全国ツアーも2ヶ月目に突入した

ツアーの合間をぬってレコーディングをこなしている

過密スケジュールは、きついけどうれしい

待ってくれているファンのために…そして…

そっと、瑠禾を盗み見る

私の元気の素…

私の視線に気がついた瑠禾が



「美花、さっきの所…半音ずれてる…」

『ご、ごめんなさい…もう一度お願いします』



気持ちを引き締めて、もう一度集中する

















スケジュールをこなし、気がつけば7月になっていた

ツアーも残りあと少し

レコーディングも山場を迎えている

休憩をもらい、私は屋上へと上がる

まだ梅雨明けをしていない外は少し湿り気があり、それでも梅雨の間の晴れ間が見えていた

分厚い雲の隙間から時折、太陽が顔を出す



『…あつ…』



私は携帯を取り出し、未送信ボックスに残っているメールを開く

宛て先はない

みんなには内緒で詩を書きためていて…

誰に送るでもなく、自分の気持ちや思った事を書いている

もうすぐ、七夕だなぁ…なんて考えていると自然と言葉が浮かんでくる

携帯を打つ事に夢中になってしまって、誰かが屋上に来た事に気がつかなかった



「美花…?」



ハッとして振り返ると雅楽が立っていた

そして、私が打っていた携帯を横眼に見る



「メール?」

『あ…ううん…別に、これは…』



私が携帯を直そうとすると



「歌詞…打ってたんじゃないのか?」

『えっ?』



なんでわかったんだろう…誰にも言ってないのに…



「俺も暇さえあればそうやって歌詞を携帯に打ってるし…」



そう言ってにっこり微笑む



「よかったら読ませてくれよ…」



雅楽のその言葉に隠せなくなって、私は携帯を渡した



「うん…これ、いいな…オマエの素直な気持ちが出てる」

『ホント?』



雅楽のその言葉にホッとする



「他にもあんのか?」



私は携帯を覗き込み、今までに作ったリストを見せた

この光景を瑠禾に見られているとは知らずに…

















7月7日…

この日のライブが終了…

私たちはホテルへと戻る



『瑠禾…ちょっといい?』



部屋に戻る前に瑠禾を引き止めた



「何?」

『ちょっと、付き合ってほしくて…』



2人で連れ立ってホテルのバーへ行く



『これを見てほしくて…』



私は自分の携帯から瑠禾宛てにその場でメールを送信した

すぐに瑠禾の携帯が震える

瑠禾は無表情で携帯を開きメールを読んでいる













どのくらいの時間がたったのかな…

何も言わない瑠禾を見ると、携帯画面を見つめたまま動かない



『…瑠禾…?』



私が声をかけると手で制止された

私は内心ドキドキしながらも、瑠禾の言葉を待ちカクテルを口に含んだ



「美花…これは、誰を想って書いたの?…雅楽?」



瑠禾の言葉に驚き、声が出なかった

どうしてここで雅楽の名前がでてくるの?



『これは、瑠禾の事を想って書いたんだよ…ただ、私の気持ちを綴っただけで…』



私がそう言うと、瑠禾が天井を見上げて一度だけ大きなため息をつく

そして…



「来て…」



私の腕を掴むとバーを出てしまった

瑠禾に引っ張られながら、彼の部屋へと来てしまった

部屋に入ると同時にきつく抱きしめられる



『…瑠禾?どうしたの…?』

「…最近、雅楽とばかり一緒にいたでしょ…」

『あ…あれは…』

「二人が一緒にいるのを見るのが苦しかった…」



瑠禾の腕に力がこもる

だけど、それは私にとってみると嬉しい以外の何物でもなくて…



『ごめんね…瑠禾を不安にさせて…私は瑠禾がいないと…息もできないの…』



私がそう言うと、瑠禾の腕が緩み私の鼻をつまんだ



「真似っ子…」



瑠禾の笑顔にホッとする



『瑠禾、今日は七夕だよ…』

「…うん…」

『私の願い事は…いつまでも瑠禾と一緒にいたい…』

「…?それは…叶ってるでしょ?」



普段はとてもいろんな事に敏感な瑠禾が、こんな時はなぜか鈍感になる

これは…計算?

どんどん赤くなる私の顔は、瑠禾も気がついたみたい



「俺の願い事は…」



そう言おうとした瑠禾の口を塞いだ

溢れてくる想いを口にする



『私の願い事は、いつまでも瑠禾と一緒にいたい…それは…ずっと…一生…』



体中の体温が上がってきて、息も途切れ途切れになってしまう



『私と…結婚…してください…』



何も答えない瑠禾…

沈黙が恐怖に変わっていく



私が恐る恐る瑠禾を見上げると、彼の口を塞いでいた私の手に触れた



「話したくても、口を塞がれたら喋れない…」

『あ…』



私が自分の手を引っ込めようとした時、瑠禾にその手をギュッと握られた



「…美花…俺の願い事も、美花と同じ…一生ずっと側にいてほしい。言ったでしょ…。美花がいないと息もできないって…」



言葉が出てこなくて、代わりに涙が零れて…



『ありがと…瑠禾…』

「逆プロポーズされたんだから、俺が婿になるんだよね?」

『えっ?…冗談だよね?』

「ううん、本気…。美花の苗字なんだっけ…〜♪」



――鼻歌…歌ってる…



「ドレスも…俺が着ちゃう?」

『…うっ…似合うと思うけど…』


ドレス姿の瑠禾を想像して声が消えそうなくらい小さくなる



――ウェディングドレスは…女の子の夢なのにぃ…



顔を上げる事のできない私の顎に瑠禾の長い指がかかった



「冗談…ドレスは…美花のが似合うよ?」

『…瑠禾が言うと…冗談に聞こえないから…』



少し拗ね気味にそう言うと、顎を持ち上げられ

吸い込まれそうな漆黒の瞳に視線を捕らえられた



「美花のドレス姿…見たい…」

『…瑠禾…』



フッと笑みを浮かべて、顔を近付けてくる



「…美花に捕まった…」



重なりあう唇に瑠禾の体温を感じながら…



――私は…葉山姓になれるのかな…
















- end -

2009.07.07


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