薬指の決心
深夜の海岸でタバコを1本取り出し火をつける
ため息と共に吐き出される白い煙りが上昇し、空気に溶けて消える
遠くに聞こえるバイク音
車のクラクション
闇の奥から聞こえてくる波の音
車に背を預け、耳に入る様々な音をBGMにまたタバコをふかす
何かに不安があるわけやない
仕事も順調で、今は怖いもんなんてあらへん
やけど…
いつもの生活や仕事の煩わしさから、距離を置きたくて一人の時間をわざわざ作る
こんな日は、携帯の電源も切って自分が生きているこの街を傍観しとる
どこか別の場所に自分を置かんと、考えも纏まらん
気持ちは決まっとる…
せやのに、中々行動に移せん自分に苛立ちを覚える
東京に進出して、無我夢中で走ってきた
俺の頭ん中には仕事しかなかった
器用に立ち回れる人間やない
慎みたいに人とも上手く付き合えん
アイツがフォローしてくれとるから、俺はこの業界で生きていけとる
そんでも…
これだけは慎の力を借りるわけにはいかんしな…
ポケットから取り出した小さなハコを握りしめてタバコをくわえる
美花ちゃんの事を考えると臆病な俺が顔を出す
暫く忘れとった―…
彼女に出逢って、恋をして…
その笑顔に癒されて…
いつの間にか美花ちゃんが俺の精神安定剤になっとったんやな…
美花ちゃんに出逢うまで、俺に[女]は必要なかった
でも…
俺には彼女が…
美花ちゃんが必要や…
車に乗り込み、キーを回す
ここに来た時の俺とはちゃう…
俺の譲れんもんの中に、美花ちゃんもおんねん
携帯の電源を入れると、メールが届いた
To 隆実さん
お仕事お疲れ様
今、帰り着きましたo(^-^)o
まだ、お仕事ですよね?
起きて待ってられなかったら
ごめんなさい…(___)
気をつけて
帰ってきてくださいね
From 美花
今日は、うちに来たんやな…
決心が鈍らんうちに、今夜中に彼女に伝えたい
ハンドルを握る手に力が入るのを感じ、深呼吸をして自分を落ち着かせる
サイドブレーキをおろし、アクセルを踏み込み彼女のもとに急ぐ
自宅に帰り着くと、部屋の電気は明るかったけど彼女はソファーで眠っとった…
俺を待ってそのまま…
彼女も相当疲れとるはずやのに…
触れたい…
何度も
何度も口づけをして…
ドキドキを悟られないようにして…
いつまでも
いつまでも
美花ちゃんを感じていたい…
恋が愛に変わり、与えられるものから与えたいと思うようになった
まだ寝とる彼女の指に箱の中の物をつける
起きたら…
なんて言うやろか…
彼女をベッドに運び、頬に口づける
起きたら…
とびきりの笑顔で言うてや?
『隆実さんのお嫁さんになる』て…
愛してんで…
美花ちゃん…
-end-
Special Thanks
関西弁監修 of* かや様
2010.07.21
K's factoryU 香月様に捧げます
HAPPY BIRTHDAY 香月ちゃん
*幸
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