欲しかったんだろ
吐息が頬を掠める
私の髪が彼の肩にかかる
彼の指が…私の顎に…
彼の瞳は私を映しだし、切れ長の目がスッと細くなる
「…美花…ちゃん…」
私の名前を呼ぶ声に、心臓が煩く主張を始め思考の止まった頭に霞がかかる
『京…介く…』
彼の名前を声に出せたのかさえ、わからない
でも、私は彼の唇に触れたくて…
「…ちゃん。…美花ちゃん!」
私を呼ぶ声がだんだんと大きく聞こえてきて、ハッと目を開けると京介くんが目の前にいて
ここがどこなのかをまだ覚醒しきれてない頭でボンヤリと考える
『…あ、…私…』
「うん、桃ちゃんのメイクの途中で寝ちゃったんだよ」
その言葉を聞いて、目を擦るために伸ばした掌が行き場をなくし
宙に浮いたままになった手をプラプラとさせると京介くんに笑われてしまった
「そろそろ起こさないと、寝起きで撮影は頭働かないからね」
『ありがと…』
少しだけ焦ってしまった気持ちを落ち着ける為にミネラルウォーターを口に含む
「最近、忙しいみたいだね…」
『…私なんて…。京介くんの方が…』
私の言葉を微笑みでかわし、台本に視線を落とす
伏し目に長い睫毛がやけに映えて、せっかく落ち着きつつあった気持ちがざわつく
どうしてあんな夢を見ちゃったんだろう
ダメだ…意識しちゃって…
頬が熱くなるのをペットボトルで押さえる
「中西さん、美花さん、お願いします」
スタッフの声に現実に返る
「じゃ、よろしくね♪」
『は、はい!』
あの後は、あまりよく覚えていない…
ちゃんと演じる事ができたのかな…
ボーッとした頭の中は、昼間から何の整理もついてなくて
ただ、淡々と進む撮影をこなしただけだった
なんでこんなにスッキリしないんだろう
原因がわからず、ただため息をつくだけだった
催眠術とか魔法にかかったら、こんな感じなのかな…
「顔色、悪いよ…?」
その声に振り向くと、京介くんが心配そうに覗き込んでくる
『は…だ、だいじょ…』
うまく吐き出せない空気に言葉が途切れる
「それって…俺のせい…?」
彼と視線が合うと…
クスッと微笑んで、その表情に心臓がまたトクリと音を立てた
胸の前でギュッと拳を握ると
「ごめんね…」
『…ど…して、京介くんが…謝る…の?』
やっと紡ぎだした言葉は力がなく、ホントに私…おかしい…
「俺が魔法をかけちゃったから…」
言ってる意味が…わかんない…よ
目の前でパチンと指を鳴らすと、体から力が抜けて私は京介くんに向かって倒れてしまう
『っ!』
「あ、顔色良くなった♪」
京介くんに馬乗り状態になっているとわかり、私の顔がみるみる熱くなっていく
『…ごめんなさ…』
「ね、…こっち、向いて?」
彼の指が私の顎にかかり、吐息が頬を掠める
私を映したその瞳は私を捕らえて離さず、切れ長の目がスッと細くなる
『…え…?』
これって…
彼の顔が近づいて来て…
ん…息が…苦し…
『プッはぁっ!!』
「寝起き、凄いね♪」
鼻を摘まれた感触に声のする方を見ると、私の顔の前には彼の細くて長い指が…
『…鼻摘んだの、京介くん?ひど〜い!』
「ひど〜いって…美花ちゃんだって酷いよ。夢の中の俺とイチャイチャしてたの?」
そのまま、人差し指で私の鼻の頭をチョンと突く
「ず〜っと『京介くん♪』なんて可愛い声で夢の俺を呼んで…隣で聞いてる身にもなってよ」
『…夢…だったんだ…』
「そんなに良い男だった?夢の中の俺は…」
そう言いながら、人差し指に私の髪の毛をクルクルと巻き付ける
顔は笑顔だけど、目は笑ってない
夢の中の自分に…嫉妬してるの…?
裸の彼の胸に頭をつけると、彼の心音にこれが現実なんだと実感する
『京介くんは夢の中でも、良い男だったよ。でも…』
「…ん?」
『今、ここにいる京介くんがいちば…』
最後まで言わせてもらえず、唇をキスで塞がれる
薄く開いた唇の端をペロッと舐められ…
「欲しかったんだろ…?」
カッと顔が熱くなったのがわかった
確かに…
夢の中で私はオアズケ状態だった
彼の顔が近づいてきたら目が覚めて…
『なんでわかったの?』
私の問いにクスッといつもの笑みを向けてくれる
「だって、寝てる間に耳元で囁いたんだ…
起きたら俺のキスを欲しがってよって」
-end-
2011.03.05
相互リンク xxx のひよこ様に捧げます
遅くなった上にこんな出来ですみませ…
京キチ ひよこ様のみお持ち帰り可です
誕生日おめでとう ひよりん♪
\(^O^)/
愛だけはたっぷり(はぁと)
*幸
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