DARLING | ナノ





月光




『…ん…』



この季節には珍しく、夜風の肌寒さにふと目が覚めた

目をゆっくり開けると、端正な顔立ちに長い睫毛の彼の寝顔が…

彼のたくましい腕が私の体に巻きついている

顔にかかる彼の寝息…

私しか知らない素顔の彼が眼の前にいる

寝ている彼の背中にそっと腕をまわした



――あ…冷たい…



彼の背中、そして肩はびっくりするくらい冷たくて思わず部屋を見渡す

レースのカーテンが風に揺れていて、窓が開いているのだとわかった

隙間から射しこんでいる月の明かりすらも揺れている





ここは彼の自宅
高級マンションの結構上の方の階…

入ってくる風は、8月のものとは思えないくらい冷たいもので

私は腰の位置まで下がっていたシーツを引っ張り、彼にかけた



――あとは、窓を閉めないと…



そう思ったと同時に違和感を覚えて彼を見ると、彼の目が開いていて



『っ!!…ごめんなさい…起こしちゃった?』

「…ん…」



まだ寝ぼけ眼の彼…



「…なんや…シーツかけてくれたんか?」

『…うん。隆実さん…肩とか、背中とか冷たかったよ…。窓閉めてくるね?風邪ひいたら大変…』



私は彼から離れてベッドから出ようとした



「ん〜…逃がさへん…」



彼から離れた私をまた腕の中に捕らえる



『もう…窓を閉めてくるだけだよ?』



そう言っても聞いてはくれなくて、益々彼の腕が私に絡まる



『た、隆実さん…?』



恥ずかしくて…

だけど

嬉しくて…

彼の名前を呼び、頬に触れる



「俺から離れるやなんて…たとえちょっとの間でも許さへん…」

『だけど…風邪ひいちゃうよ…』

「…ほな…俺が行く…」



そう言って、彼が私から離れた



彼が離れた喪失感がなんとも言えないくらい寂しくて…

温もりの残った場所に触れ、窓際に近づく彼を目で追った

窓辺に立った彼が振り向き、私に手を差し延べる



「…こっち…きい、美花…」



月明かりに照らしだされ少しだけ透けた彼の髪と彼のシルエットにドキドキしながら手を取る

そのままギュッと抱きしめられ…



「そない切ない顔せんでも…」



私の耳元で囁かれた彼の声と言葉…



『さっき、離れたくないって言った隆実さんの言葉の意味がわかった…』



私の言葉に彼の顔が近づいてくる

自然と目を閉じ、彼を受け入れる










唇に隆実さんのぬくもりを感じ、それだけで安心する



少しだけ開かれた部分から温かい感触が侵入してきた



『…ん…ふぅ…』



隙間から声にならない声が洩れた













月明かりの元で愛され方を知った

それだけで…私は幸せ…

貴方を…隆実さんを…

愛しています













-end-
Special Thanks ひろ

2009.08.18

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