DARLING | ナノ





橙と藍のあいだ








獅子座A型今月の占い…



《知らず知らずのうちに他人を巻き込むパワーがあります》



どういう事?

たしかに…他人を巻き込んでいるかも…

私の隣には…JADEの夏輝さんがいて、しかも助手席。そして私は運転席

私の手はハンドルを握っていて、場所は10:10の位置に…

去年の秋に念願だった車の免許を取って

その事に満足してしまった私は、そのまま運転する事もなく紙ドライバーの道へ…

苦労してとった運転免許証は身分証へと変わってしまっていて

何とかしたいけど、どうしていいかなんてわからなかった




そんな時、中学のクラス会があって、スケジュールの都合がついた私は途中からだけど参加できた

同級生の中には、運転のプロがいて私の悩みを聞くとすぐに運転の練習を手伝ってくれるって…

約束の日は私のオフに合わせてくれることになった

それを知った夏輝さんが…



「美花ちゃんの運転の練習は俺が付き合うから!!」



って…

…で、現在に至る…



「美花ちゃん、もう少し踏み込み強くてもいいよ。慎重なのもいいけど…リラックスして…」

『は、はい!!』



久しぶりの運転にガチガチになっている私の緊張をほぐそうと、しきりに夏輝さんが話しかけてくる

あまり聞いてなくて…

気がついたら黙ってしまって、返事すらしていない状況になっていた












夏輝さんに促されて、近くのコンビニの駐車場に車を止めた

サイドブレーキを引くと、一気に力が抜ける



『ふぅ〜…』



ハンドルに顔を埋めていると、夏輝さんがお茶を買ってきてくれて…



「はい、お疲れ様。これでも飲んで。一休みしよう」

『ありがとうございます。あの…余裕がまるでなくて、すみません…』



お茶を受け取ると、夏輝さんに向かって謝る私の頭をポフポフと撫でられる



「久しぶりの運転なんだし…仕方ないでしょ…」



夏輝さんが買ってきたコーヒーを一口含み、ホラッと私の持っていたペットボトルの蓋を開けてくれる

お茶を口に含むと、それまでの緊張感から一気に開放された気分になり落ち着いた



『…緊張しましたけど、夏輝さんと一緒だから楽しいですね。』



安心感からか、自然と笑みがこぼれて夏輝さんに笑いかける

すると、なぜか夏輝さんは私から目をそらし…



「今日、俺が美花ちゃんを誘えてよかったよ。他の奴を隣に乗せて運転なんて…」



そう言った夏輝さんの顔は、とても険しくて…

だけど私は、笑いが込み上げてきてクスクスと笑ってしまった



『夏輝さん、運転の練習に付き合ってくれると言った同級生は…女の子ですよ?彼女、自動車学校で働いているんです。』



私の言葉に、夏輝さんの顔がみるみる緩んでいく



『いくら同級生とはいえ、男の子には…教えてなんて言えません…』



自分の顔が赤くなっていくのがわかる

とっさに夏輝さんから目をそらし、お茶を一口含むと



「俺を隣に乗せているって事は…その…期待してもいいって事かな…?」



だんだんと小さくなっていく声が、すごく愛おしく感じられて…



『…ハイ…』



思わず答えてしまい、すぐに自分の口を押さえた



――何を口走ってんだろう…やだ…穴があったら入りたい…



恥ずかしくて夏輝さんを見る事もできない

隣にいる夏輝さんがどんな表情したとか、どんな態度とったとかそんな事は頭の隅にいってしまっていた

その時、運転席のドアが開いた



「運転変わって…」



夏輝さんの声だとすぐにわかったけど、顔も見ずにその場所を譲る

そして、私は助手席に移動したけど…



――夏輝さん、私の返事聞いてなかったのかな。まさか、迷惑だと感じてしまったかな…



後ろ向きの答えしか出てこない私に気がついて



「美花ちゃん、場所が悪いって…。あそこコンビニの駐車場だよ。だから、場所変えるから…」
『…あ…はい…。ごめんなさい…』



助手席から運転をしている夏輝さんをそっと盗み見る



――やっぱり…カッコイイ…



友人と先に約束していたのに、それを断ってしまった

それほど私は夏輝さんと一緒にいたかった

陽が沈みかけて西の空が夕焼けで染まっている



「知ってる?今、この時間帯を《オウマガトキ》って言ってね、魔物が横切るから交通事故が多発するって言われてるんだ」

『オウマガトキ…』



こんなにまだ明るいのに…



「さて、着いたよ…」



車が止まったのは、海を見渡せる山の展望台

目の前に広がる景色に思わずため息が出る

幸い人もあんまりいなくて…

夏輝さんに促されて車を降りた

空がさっきよりも藍色が濃くなって、眼下に広がる街には明かりが灯り、夜景を演出しようとしていた



「魔物が横断している危ない時間は、まだちょっと早いかな…美花ちゃんには…」



私の隣に立った夏輝さんが呟く

それは、すごく優しさに溢れた言葉で…



「もう少し、俺と運転の練習して慣れたら…。美花ちゃんの運転で旅行でも行こうか?」



――運転の練習?旅行?…え…?



自分の耳を疑い、目をパチクリしてしまう



「…だから…俺以外の人は、隣に乗せないで…」



夏輝さんの言葉に追いつけない頭をフル稼動させるけど、理解するまで時間がかかって…



『あ、あの…夏輝さん…?』

「美花ちゃんが、好きなんだ。だから、同級生と運転の練習するなんて聞いて、焦っちゃって…」



コンビニの駐車場での会話を思い出した



『…友達との約束を断ったのは、夏輝さんと一緒にいたくて…だから…』



恥ずかしくて消えそうな声を振り絞って出す



『私も、夏輝さんの事好きです…』



目をギュッとつむった時、私の唇に温かいものが触れた

驚いて目を開けると、そこには夏輝さんの目が…

またそれにも驚き思わず声を上げそうになった時、今度は温かく湿ったものが口内に侵入してきた



『!!!』



その動きに翻弄され体の力が抜けた時、夏輝さんに支えられた

唇が離れると



「俺だけの…美花ちゃん」



目を見つめられ囁かれた



「せめてキスする時は、目を閉じようよ…って、俺もか…」



クスッと笑う夏輝さんから目が離せないでいた

顔のほてりが治まらなくて…
夜で良かったと安堵する





夢ならこのまま…

現実なら時が止まればと、何度も思った




双子座O型今月の占い…

《魅力が溢れて注目度がアップ。どんな相手も落とせそうです》














-end-


注:1

文中に出した占いは勝手に考えたものですのでご了承くださいませ


注2:

『逢魔ヶ刻』(おうまがとき)
車のヘッドライトをつける程ではない、まだ明るいくらいの時間帯です


2009.08.22


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