DARLING | ナノ





沢山の想いを込めて





「本日のお相手も中西京介と」

『美花でした』



約1年になろうとしているラジオ番組の収録を終えた

最近だいぶ美花ちゃんとのコンビも板についてきたようだ



次の仕事場に移動しようとした時、駐車場で聞き慣れない声を耳にする



――…ん?子猫…



どうも高い位置からの泣き声にその方向を見てみる

案の定、木に登ったまま降りられなくなった子猫がいた

周りを見ても誰もいない…

俺は仕方なく荷物を置き、被っていたキャップのつばを後ろにして木に手をかけた

木登りなんて何年ぶりだよ…

なんとか子猫に手を伸ばし掴む事ができた

短い小さな爪を目一杯出してしがみついてくる

必死なんだな…

地上に戻っても子猫はしがみついたまま俺から離れようとしない

少し…震えているか…?

でも母猫らしき姿を見つけて子猫を下ろすと、こちらを警戒しながらも子猫を救いにきた

その目にくぎづけになる

その後、ラジオ局に来るとあの猫たちの事が気になり、駐車場を通る度に猫の姿を探してしまう

人から視覚になっている場所にほんの少量の餌を毎回置いていた



――ちゃんと生きてるのか…?



それから数週間後、ラジオ局に行くと辺りを見回している美花ちゃんを見かけた

そして、視覚になる場所にうずくまる

気になりそっと覗くと…



『よしよし、お腹空いてたね…』



俺が助けた子猫と母猫が美花ちゃんの足元で彼女があげたであろう餌を食べていた



――なんだ…俺が気にしなくてもちゃんと生きてる…



その場を離れ、局のごみ箱に猫缶を…捨てた…

ヤキモチか?

なんだ…この感情…

俺には懐かなかった猫が彼女に懐いたから…?



『京介くん!』



その日は珍しく美花ちゃんが声をかけてきた

なんとなく顔を合わせづらいのは…俺だけか?



「ん?どうしたの?美花ちゃん…」



いつものように微笑んで言葉を返す



『あの…これ…』



コソッと他の人にはわからないように俺に渡してくれた物…

袋の中には猫の餌が入っていた



『この前たまたま見かけて…猫を助けた後、餌を置いていたのを…』



その言葉に、さっき見た彼女の姿に納得がいく



「俺に渡さなくても…美花ちゃんが自分であげればいいんじゃない?」



俺って…意地悪い…

案の定、彼女は真っ赤になって俯いている



『京介くんが…猫に餌をあげているのを見て…私も…』



今にも消えそうな声で言葉を紡ぐ君…



『ごめんなさい…私、余計な事を…』



と、俺にくれた袋を奪い取り部屋から出て行った

俺は…その場から動けなかった

今までの俺なら、女の子のそんな行動にもうまく対処できたはず…













そんな中、番組の1周年を迎えた

番組の中ではいつも通り振る舞う彼女も俺とは目も合わさない

当然か…

美花ちゃんに、俺は他の子と同じ対応ができなかった

いつもの俺ならうまく立ち回れたはず…

番組の最中にそんな事を考えてしまって、話題を振られた俺が答えに詰まると彼女が助け舟を出してくれた

でも…彼女は俺を見ない

こっちを見ろよ!!

だんだんとムキになり、苛立ちを覚える

くそっ…意識してしまって…上手く喋れない









クッ…

調子が狂う

全く俺らしくない…



そんな中、美花ちゃんは俺のフォローを必死にしてる

俺に纏わり付く女の子はたくさんいた

だけど…

君みたいに俺を助けようとする子は…

いなかったな…

当たり前の光景に溶け込みすぎていて

君がそこにいていつもと変わらない笑顔を向けてくれていた事に気がつかなかった

あの猫は俺で、誰かに見つけてほしかった

それを…彼女が見つけた

君と俺の物語が始まる…

今、込み上げている沢山の想いは

これから伝えていくよ…













-end-
Special Thanksナツ

2009.11.02

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