DARLING | ナノ





first kiss






遂にこの日が来てしまった

ドラマ撮影に入って、約一ヶ月…

最初から予定に組み込まれていたキスシーン…

ホントは…ものすごく山田さんを困らせてしまっていた

でも、覚悟を決めないとね…

私だってプロの端くれなんだもの…

自分の気持ちを置いて、私はこの日の撮影に望んだ





















数日前…

京介くんから連絡がきた

まだ付き合いだして間もない私たち…

周りの人にまだ伝えていないこともあって、中々会うこともできないでいたけど、たまに一緒になる歌番組の収録の時は、山田さんがうまくカモフラージュしてくれてこっそり会わせてくれていた

付き合うってこと事態初めてで、私は二人でいてもどうしていいか分からないのが本音…



――京介くんは…女の人の扱いに慣れているんだろうけど…



私の心が読めるのか、未だ私たちは、キスをしていない…

その事が頭にあるからなのか、数日後に迫ったキスシーンに気持ちが全然追いついていなかった









京介くんからきたメールにはたった一言…



【今から、家に行くから…】



久しぶりに会える京介くんに、心が落ち着かず何度も玄関を往復する

胸に抱いた携帯電話が鳴るのをまっている

そして…





【着いたよ】





メールがきた

鍵を外してドアを開けると



「こんばんは」



ニット帽を目深に被って、眼鏡をかけた京介くんが玄関の前に立っていた

吐く息も白く、マフラーでぐるぐる巻きの京介くん…



「ごめんね、夜遅くに…」



玄関に招き入れるとニット帽とマフラーそして眼鏡をとり、いつもの京介くんの笑顔に会えた

何故かホッとして笑みが零れる



「明日も早いよね?用事を終わらせたらすぐに帰るから…」



用事…?

不思議に思いながらも久しぶりの京介くんに癒されていた

ふと、彼の表情が曇ったことにドキリとする



『あ…上がって?』

「いや、ここで…。すぐに帰るし…」



穏やかなんだけど、いつもの京介くんなんだけど…

なんだか…怖い…かも



『…京介く…ん?』



目を細めて黙って私を見つめるその瞳に吸い込まれそうになる



「…美花ちゃん、…キス…していい?」



その言葉に驚いたと同時に恥ずかしさも込み上げてきて…

京介くんの顔を見れなくなって俯いてしまった



「…ごめ…俺、どうかしてる…」



前髪をくしゃっとかきあげ、横を向く彼の横顔に心臓が跳ね上がる



「ゆっくり待とうと思ったのに…話を聞いて焦って…」

『…話…?』

「あぁ。君のマネージャーに聞いた。…撮影で…キスシーンがあるって…」



――山田さんに…?



胸が針を刺したようにチクリと痛む

何故か後ろめたい気持ちになり、彼の顔を益々見れなくなってしまった



「…美花ちゃん…?」



彼が私の顔にかかる髪を耳にかける

耳に触れた彼の指の感触に体がピクリと反応をした

胸の中に込み上げてくるものがあって、体が熱くなってくるのがわかる



『…きょ…すけく…私…キスしたこと…ないの…』



今どき、キスくらい誰だって経験してるよね…

私のこと子供だって、呆れちゃうかな…

あまりにも恥ずかしい告白に涙が込み上げてきた

その時…

優しい…ふわっとした温かさに包まれる



「やっぱ…ダメ。美花ちゃんのファーストキスは…俺がもらう…」



私の顎に京介くんの指がかかるとクイッと持ち上げられ、その切れ長の涼しげな目と視線がぶつかる



――私だって、ファーストキスは好きな人と…京介くんと…



その想いから、自然と瞼を閉じていた

顎にかかっていた指が外れ、私の頭ごと大きな掌に包まれる

そして…

京介くんの香りに一気に包まれたかと思うと、唇に彼のまだヒンヤリとしたものが触れた

すぐに離れたけど…

私は目を開ける事ができなくて…

すると、今度は聞こえるくらいのリップ音とともに京介くんの唇が私のものと触れて…離れた

彼が…

優しく抱きしめてくれて私はそのまま胸に顔を埋めた



「…かわいい顔してたから、二度もしちゃった…」



耳元でクスッと笑う彼の早い心音が服の上からもわかる

京介くんも…

緊張してたのかな…

大人で、冷静でしっかりしてて…

そんな彼なのに…

意外な一面を思わぬ形で知る事になった



『ねぇ…?ヤキモチ妬いてくれたの…?』



私のその問いかけに答えない京介くん

でも、私を抱きしめてくれるその腕に力が込められたのがわかった



「キスシーンて…いつ?」

『…?え…っと、12日かな…』

「…消毒しにまた来るから…」



意味がわかるまで時間がかかったけど、彼の気持ちが嬉しくて…

いつまでも彼の香りに包まれていた…
















「よーし、本番!!」














-end-

2010.02.12

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