LOVE TRIP | ナノ





旅の途中






『わぁー!!店長!見て、見て!かわいい』

「うん、かわいいなぁ…でもタマちゃんはもっと賢そうな顔してたよなぁ…」

『………。あ、あくびしてる♪』

「タマちゃんのあくびは、気品が漂って…」

『もう、店長!タマちゃんを引き合いに出すのはやめてください!毎回これで決まらないんだもん』



私と店長は仕事の依頼の合間にペットショップに寄るのが、最近のお決まり

タマちゃんは今年のお正月にたまたま預かった猫

今は飼い主のすみえさんもすっかり元気になって、タマちゃんはすみえさんと一緒に暮らしてる

すみえさんに何かあったら、タマちゃんは私たちが引き取る事になっているけど…

タマちゃんが帰ってしまってからの店長は、毎日ため息ばかりで元気がなかった

だから提案したの…

新しく猫を飼いませんか?って…

それからは、毎回こんな感じで…

猫を見て少しずつ元気を取り戻したけど、なかなかタマちゃんの事が頭から離れないみたい…

結局この日も、猫を見るだけで終了…



『もう、店長。また決まらなかった…』



少し拗ね気味に頬を膨らませてそう言うと



「怒るなよ…ごめん、美花」



店長の優しい声が私の耳元をかすめて、あまりのくすぐったさに思わず身をよじる



『怒ってないよ…』



店長がタマちゃんの事を忘れられないのはなんとなく気持ちがわかる

ただ私は、店長に元気になってほしかっただけ…

店長の差し出した左手に私の右手を添えて、この日も帰宅した

その帰りに…



「ん?どこからか…子猫の泣き声が聞こえないか?」



深夜に響き渡る泣き声は間違いなく子猫のもので…



『ホントだ…お母さんを呼んでいるのかな…』



なんとなく胸騒ぎがしたのか、店長は声のする方へと足をむけた

私も店長と一緒に向かう



「あ…」

『嘘…』



声のする方にいた子猫は段ボールに入れられていて、明らかに捨てられていた

中を覗くと…黒猫が1匹だけ…

店長が猫を抱くと爪を立てて必死にしがみついてきた



『…店長…』

「弱ってるな…ここには置いておけないから、とりあえず連れて帰ろう…」



















店長のマンションへと連れて帰り、知り合いの動物病院の先生と連絡を取った


近くに住んでいるという事もあって、必要な物を届けてくれて

ついでに猫の様子も見てくれたけど、特にケガなんかはしてないって…

いただいた子猫用のミルクを温めて出す

勢いよくミルクを飲んでくれて、私も店長もホッと安心した

あまりにも勢いよく飲むから、顔中にミルクがとんで…

黒い顔が白くなって、店長と顔を見合わせてクスクスと笑っちゃって…

お腹がいっぱいになると、自分の顔にとんだミルクをなめて

何故か店長の膝の上に乗って寝ちゃって…



「こいつは、誰に媚びを売ればいいのかよくわかってるな…」



そう言った店長は、ホントに嬉しそう



『店長…顔がニヤケてますよ…』



――私の前でもそんな顔は滅多にしないのに…なんだかちょっと妬けちゃう…



そう思った瞬間、店長の手が私の頭をグイッと引き寄せ唇が触れた



『ちょ…店長!不意打ち…』

「美花がそんな顔するから…」

『そんな顔って…どんな顔ですか…』

「内緒…もっと…」



ねだるように重ねされる唇…

大人な店長が時々見せる少年のような表情…

でも…久しぶりに見たかも…

黒猫ちゃんのおかげかな…



















次の日、お礼も兼ねて動物病院に黒猫ちゃんを連れて行った



「男の子だね…夕べ言っても良かったんだけど…」



――男の子なのに、店長の膝に座ったのか…



クスッと笑った私を店長は見逃してなくて



「美花…なんで笑ってる?」

『だって…店長はやっぱり猫にも子供に人気なんだもん…クスクス…』



なんとなくだけど、タマちゃんがうちにいた時の店長に戻ったような気がする



『店長、この子うちで飼わない?』

「…………」



店長が黒猫ちゃんを見つめてる



「おまえ、うちの子になるか?」

ニャ〜ン



まるで店長の言葉がわかるかのような返事に、私も先生も笑いを抑えきれなかった



「もちろん、美花も面倒見てくれるよな?」

『はい♪もちろん!あ、格闘家の名前つけるのだけは勘弁してくださいね』



私がそう言うと、店長のギョッとした顔…



――やっぱり…そのつもりだったんだ…


















帰りに猫用の砂や餌の器を選ぶ店長は本当に嬉しそうで…

子供ができたらとっても良いパパになりそうな気がした



『でも、店長…そのうちタマちゃんを預かる事になったらどうしよう…猫って縄張り意識強いよね?』



前から少しだけ不安になっていた事を聞いてみる



――私から言い出した事なんだけど…



「タマちゃんは女の子だろ?この子は男の子だから大丈夫!縄張り意識強いのはオス同士が対峙した時で、基本メスはあんまり関係ないし、興味ないんだ…」

『そうなんだ…さっすが店長!』

「おだてても何もないぞ…」



困った顔の店長がとても可愛くて…



『店長…名前何にする?』

「美花の好きな名前つけていいよ。俺が考えたらどうしてもエイジとかセイヤとか…強そうだろ?」



エイジとかセイヤとか…?



『じゃあ、この子に決めてもらおうかな…ガク!』



………



『ルカ!』



………



『カイ!』



………



「お、おい…それって…」



店長が慌てだす

私の大好きなトロイメライのメンバーの名前を並べているから



『リュウ!』



ニャ〜ン



「!!!」

『返事した!店長、返事した!!』

「リ、リュウ?」



ニャ〜ン



「エイジ!」



………



「セイヤ!」



………



「…………リュウ」



ニャ〜ン



ガックリとうなだれる店長…



『店長…リュウって英語でドラゴン、中国語でロン、かっこよくない?』



私がそう言うと



「そろそろ美花が俺の事、名前で呼ばないかなぁ…」



ちょっと拗ねた店長の声が吐息ごと耳にかかる

これって…甘えてるんだよね…



『タケルン♪』

「それは、やめろー!!」



ニャ〜ン



二人と一匹の生活が始まろうとしている
















-end-

2009.08.20


prev  next




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -