LOVE TRIP | ナノ





頬をくすぐる黒髪




『あ…イオリ…』



ガラス越しに見る彼の顔は、真剣そのもの…

仕事に対して本気で向き合っている彼がすごく好き

私の彼は、桐島イオリ

今、カリスマ美容師として雑誌やテレビにまで引っ張りダコになっている

彼と付き合うようになって

一緒に暮らすようになって

私たちは充実してると思っていた

実際、彼はホントに優しい…


だけど、時折見せる疲れた表情に私は不安になっていた

今のお店に義理も恩もある

だから、オーナーが持ってくる取材の話を断れないでいる

ホントは…

美容師の仕事に専念したいはずなのに、取材とお店でイオリは休みなく働いていた



心配になって来てみたけど、やっぱり髪を触っている時の彼は幸せそう

胸を撫で下ろし、今夜は彼の為に栄養のある物を作ろうと決めてその場を離れた

せっかく此処まで来たし…

そんな事を考えていると、突然携帯が震える



『はい…イオリ?』

「うん。ねぇ、さっき店の前に居なかった?」



見つかってたんだ…

なんとなく嬉しくなって、でも恥ずかしくもなって…



『見つかってたの…?』

「やっぱり!店に入って来たら良かったのに…」



イオリの優しい言葉に私の方が癒される



『うん、ありがとう。でも、イオリは仕事中なんだし!私、買い物して帰るから…』

「あ、待って!もう少ししたら店も終わるし、買い物の後でいいから店に寄ってよ♪」



結局、イオリに押し切られる形で閉店後のお店に寄る事になった

















照明を落とされた少し暗い店内に入ると、イオリがハサミを磨いでいた



『…イオリ…』



遠慮がちに声をかけると、私の大好きな笑顔を向けてくれる



「はは、すごい荷物!何を作るの?」

『何でもリクエストに応えられるようにと思ったら、こんなになっちゃった…』

「これ磨いたら帰るから、一緒に帰ろ!」



うん、と頷き近くのソファーに荷物を置いた

真剣にハサミを磨ぐイオリの横顔は

お客さんの髪に触れている時の穏やかな表情ではなく

まるで闘いを挑んでいような顔…



普段あまり見せる事のない男の表情のイオリに私の心臓がドキリと音を立てる

いつまでたっても私は彼に恋に落ちる



それでもやっぱり彼に疲れの色が出ているのを見過ごせないでいた



「…美花?…どうしたの?」

『終わった…?』



優しく頬に触れてくる彼に笑みをこぼす



「うん、ごめんね…待たせて。シャンプー台に座って!美花の髪に触りたい…」



彼に促されて椅子に座る

初めて髪をブラッシングしてくれた時と同じように彼の手が私の髪を撫でる

たまに触れる指先にドキドキしながら…



「相変わらず、美花の髪質いいね!」

『イオリに管理されてるからね?美容師の腕がいいから…』

「美容師の腕だけ?」



意味深な彼の言葉に戸惑いを隠せないでいると



「倒すよ…?」



椅子を倒され、彼を見上げる…



『あ…』



不意に思い立って体を起こす

ビックリしている彼を椅子に座らせ



『私がイオリの髪を洗う!ねっ?…ダメ…』



疲れている彼を癒してあげたくて、そう告げると



「美花に癒してもらえる俺って幸せだね!」




シャンプー台のシャワー操作を教えてもらって、彼の髪をブラッシングする

少し毛先の痛んだ彼の髪…



『そろそろカットしないとね…?』

「人のばかりで自分の髪なんて考えてなかったな…」



いつもそう…イオリは…

自分の事なんて後回し



『優しすぎるよ…イオリ…』

「…そんな事言われたら、エロい事したくなる…」

『もう!』



そんな会話をしながら椅子を倒して彼の髪を濡らす

いつも彼にやってもらうようにして…

でも、美容師のマネなんて出来なくて…

諦めて自己流に切り替えた

技なんてない

ただ、イオリの疲れを少しでも取ってあげたいだけ



「美花…」



名前を呼ばれて、ふと手を止めて彼を見る

タオルを顔に置き忘れている事に気がつき…



『ご、ごめん…顔にタオル…』

「いいよ。美花は美容師じゃないんだし…そこまで徹底しなくても…」

『…どう…かな…?』

「うん♪気持ちいいよ!それに…眺めも最高!」

『…眺め…?』



彼の言葉の意味がわからずに益々動きが止まる…



「うん♪ほらっ!」



ニッコリと笑う彼に見とれていると…

胸に何やら感触が…



「俺の手は自由だし、目の前は美花の胸が揺れてるし!大発見!!」

『きゃっ!イオリ、どこ触ってんの?』



私の手が泡だらけなのをいい事に、彼の手が私の胸を包み込んで器用に動く



『…も、もう…イオリ…やめ…んっ…』



指先が服の上から刺激を送り、自分の声色が明らかに変わったのがわかる

抵抗できない状況と羞恥から、頬が紅潮して吐息が洩れた

うっすらと涙が目尻溜まると、イオリの表情が変わる



「…ごめん…」



胸から手を離し、腰を引き寄せられた



「調子に乗った…」



眉間に力が入り、眉がハの字になる

彼の手の平が頬に触れ、そのまま後頭部を包み込まれる

グッと後頭部に力を加えられると、彼の唇が私のモノと触れた

ペロッと唇を舐められ、思わず唇を薄く開く

当たり前のように、舌が絡められどちらの蜜なのかもわからないくらいに溶け合う



『…ンッ…フゥ…ハッ…』



吐息と共に交わる水音が耳に触り、体の力が抜けてきた

リップ音をさせて離れると…



「…くすぐったい…」



彼の頬にかかっていた私の髪をかき上げ、持っていたヘアゴムで髪を纏めた



「…もう…そんな顔するなんて反則…」

『…そんな顔って…自分じゃ…わかんないよ…』



潤むイオリの目が私を欲情させる



『イオリだって…その顔は…反則…』

「ムラムラしてきちゃった…?」



もっとイオリに触れたい気持ちを我慢して



『風邪ひいちゃったら困るから…シャンプー、流さないと…』

「…うん…じゃ、後で…ね…?」



後で…



この言葉の意味を考えて、頬が熱くなる

でも、この時私は気がついた

彼の耳がほんのり赤くなっている事を…


















-end-

2011.01.04


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