MYSTERIOUS THIEF | ナノ





相合傘の魔法








あーあ…
とーとー降ってきたし…
湿気混じりの空気が肌にベタッと貼りついて
ただでさえ不快な気分を益々憂鬱にさせる
傘なんか持ってるはずのない俺が雨に濡れるのもいつもの事だし…
風邪なんてひいた事もないし…
すれ違うやつらの変わり者を見る目なんて見慣れてるからなんも気にしねー
でも…
よりによって開かずの踏切で足止めをくらった時に雨が強くなった

ついてねー…

雨を避ける軒もここにはない
どーせ濡れてるからこの際どーでもいーし…
電車の通過を告げるカンカンという音が響きその合間をぬってザーッという雨音が聞こえる
不思議な感じ…
俺を濡らした雨が前髪を滑り落ち滴となる
まだ通過しない電車に少し苛立った時…
周辺がふと暗くなり、俺に打ちつけていた雨の感触がなくなった
視界に入ったのは俺には縁のない花柄の傘



『あの…風邪ひくかもしれないから…』

「…誰…アンタ?…余計なお世話だし…」

『少しの間ですから…私の自己満足にお付き合いくださいませんか?』



俺の睨みも利かねえとかコイツ何者?
特に話かけられるわけでもない
もちろん俺から話しかけるなんて事もしねーし
てか…
ほっとけばいいのに…変な女…
理解しがたいその行動にため息をつく

傘という小さな空間に他人となんていた事ない
傘を持つ彼女の手がわずかに俺の腕に触れている
彼女の息使いも…聞こえる…
こんなにも…
距離が近いと思わなかった
一度意識し始めると頭ん中がそれでいっぱいになって…
ポタポタと前髪をつたう滴が煩わしくなってついいつもの癖でブルッと頭を振った



『キャッ!』

「…あ…」



当然…その滴がかかって…
思わず彼女を振り返る

ギュッと目を瞑っているその姿に心臓がトクンと主張した
はっ…?
なんだ…今の…
ギュッと胸のあたりを触ってみたけどすでになんともないし…



『ご、ごめんなさい…変な声だしてしまって…』



なんでコイツが謝ってんの?
ますます変な女…
先に謝られたら…言おうとした言葉は喉の奥に引っかかってしまった











開かずの踏切の音がやみ、遮断機が上がる



「じゃ…どーも…」



いっせいに線路に飛び出していく車と人
俺も例外じゃなく歩き出す
傘の中から抜け出したと思ったのに視界が傘で遮られたまま顔をぶつけた



「ちょ…なにする…」

『どちらまで行かれますか?送りますよ?』

「は?そんなん別にいーし…」

『でも!』

「美花先輩!」



メガネかけた…痛そうなヤツがこっちに向かって走ってくる
てか、ここ開かずの踏切だし…?
早く渡らねえと、また…
そう思うと同時に彼女の傘を握っていた手を引っ張った
その瞬間、カンカンという音が鳴り響き



「え?美花先輩?」



メガネかけたヤツの横をすり抜けて降りかけていた遮断機をくぐる
そいつは反対側の降りた遮断機の向こうにいてくぐろうとするとこを近くにいた人に止められて…



『鴨野橋くん…』

「何?彼氏だった?」

『…いえ…同僚です…』



ふーん…、ま、関係ねーし…
握っていた手をパッと離す



「じゃーな!」



するりと傘をかわして雨の中に飛び出す



『あ………』



水たまりのバシャバシャという音と警笛に彼女の声がかき消された






【おせっかい】
この言葉がピッタリなヤツだった
他人なんてほっとけばいい…
最近、こんなに走った事ねーし…
ほんっと…だる…






次のミッションで再会する事になる彼女
おせっかいな女がかけがえのない女になるまで
もう少し…











その日の夜になって珍しく熱を出した



「たっくんが熱出すなんて珍しいねえ」

「うっせー、ヒゲ!あっちいけ!」



熱で朦朧とした意識の中で見た夢に出てきた女は…
たぶん、アイツ…







-end-

title:確かに恋だった様

2014.05.14


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