DEVIL | ナノ





運命のヒト







『あ、雨…』



イオリと待ち合わせた休日の午後の喫茶店

彼女との待ち合わせはいつもここ

学生時代から私と彼女の憩いの場所で…
とても落ち着く事の出来る雰囲気は全く性格の違う彼女と私の数少ない共通点の一つになっている

いつもの窓際の席に座り、読みかけの恋愛小説を読んでいると
ふと、窓に打ち付ける音に雨が降り出したのだとわかった

子供の頃は…雨が降るとワクワクして
雨が打ち付ける音が場所によって違って…
色とりどりの傘が町中を彩って…

いつ頃からだろう…
雨が降ると
胸が締め付けられて
心の奥の方がギューッとなって
理由のわからない涙が溢れてくる…



『…も、やだ…』



溢れてくる涙が零れ落ちないように窓の景色を見やる
一瞬、視界の端に写った人影にハッとした…

初めて見る人なのに…
何故か、私知ってる…
有名人なのかな…?



「あ、美花!」



その時、イオリが私を見つけて駆け寄って来た



「何、泣いてんの!!」



目に涙を浮かべた私を見てびっくりするイオリの声が響きわたる

だけど視線はすぐに私の手元に写り、あぁと納得して私の正面の席に座る

私の手元には読みかけの恋愛小説
彼女は私が本を読んで泣いているのだと思ったみたい…

雨が降って涙が…

なんて話、誰も信じないよね…
イオリの登場で私はさっき見た人影の事をすっかり忘れてしまった



『今日はどうしたの?イオリからの呼び出しって久しぶりだよね…』

「うん…実は美花に報告があって…」



言い出す事をためらっている姿は、いつものイオリらしくなくて…

あれ…そういえば…



『イオリがスニーカー履いてるのって珍しいね…あ!』

「…へへ♪…3ヶ月だって…」

『イオリ!おめでとう♪』



イオリが旦那さんと結婚して1年
待望の赤ちゃんを授かった
親友がお母さんになる
まだ恋人のいない私からすると、まだ遠い未来の出来事のようで



「アンタも恋人くらい作らないと!!」



あ、また言われてる…



「恋愛小説読んで泣いてる場合じゃないでしょ?」

『…はい』












イオリと別れて駅に向かうと、上がっていた雨がポツリポツリと頬に当たって
歩く速度を早めて小走りに歩道を駆け抜けていた時
急に雨足が強くなった

駅を目前にして信号で足を止められる
雨宿りできるような場所もない

濡れる事を覚悟した時、スッと傘を傾けられた



「なんや?傘もささんと、ずぶ濡れになるやんか…」



関西弁…?
心の奥をキュッと締め付けられるような懐かしい関西訛り

そして…この声に聞き覚えがある…
白いスーツにピンクのシャツ
少し長めの髪



「女の子が雨に濡れとるのを見過ごせへんのや…堪忍…」



…前髪のすき間から見える…優しい眼差し…
私…彼を…知っている…
でも
…誰…?



『…あの…』

「行き先は駅でええんか?ワイと一緒の傘で嫌かもしれんけどちょっとの間、辛抱してな?」



私の事は知らないみたい…



『…レ…イン…?』



なぜ、その名前を呟いたのかわからない…
そもそも名前だったのかな…?
だけど、彼を見てるとそう呼びかけないわけにはいかなかった



「は?…オレ、アンタと会うた事あったか?」



顔を覗き込まれた瞬間…

彼の表情がみるみる変わって行く



「…オマエ…美花か…?」









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