DEVIL | ナノ





ずっとオレがついてるから


大きな爆発と共に黒煙が上がり私の部屋が赤く燃え上がる



『…う…そ…』



ボー然と見つめる私の傍には大きな黒い犬

そして…


















天ぷらになり損ねた私は悪魔と契約を交わし10日間だけ命を延ばしてもらった

彼らの暮らす悪魔ハウスにお世話になる事になり私の監視をする事になった晴人さんと愛犬のケロちゃんと四六時中行動を共にする事になった

今日で何日目だろう

晴人さんは私の会社の前で私の仕事が終わるのを待っている

とても楽しそうに…

傘をクルクルとまわして…

天気なんて関係なくいつも晴人さんの手には傘がある

私を見つけると



「あ、美花お疲れさま〜♪」



悪魔とは思えない笑顔で私を迎えてくれる



『晴人さん!いつもありがとうございます』



他愛ない話をして、笑い合って悪魔ハウスに帰る

晴人さんの雰囲気から監視されてるなんて思えなくて…

いつの間にか晴人さんの笑顔を探している自分がいる

時々、ハッとするような表情で空を見上げる晴人さんはとても綺麗で

本当に悪魔なのか疑問さえ浮かんでくる



「美花はさ、オレたち悪魔の存在を怖がってる?」



唐突に投げかけられた質問に言葉を失ってしまう



『正直に言うと、怖いです…だけどあまり実感がないっていうか…』

「どうして?目の前にいて、キミの魂を肉体から切り離そうとしているのに…」



そんな残酷な言葉を私に言ったって、私は知っている

翔さんが弟思いの優しいお兄さんだって…

理さんが向上心と信念を持って仕事をしてるって…

志貴くんも情熱的な感情を持っているって…

廻くんが常に仲間の事を考えて行動してるって…

晴人さんが皆を…私を…いつも笑顔にしてくれるって…

自分の寿命があと10日間だという現実を突き付けられても

それを素直に受け入れられているのは、彼らのおかげだってわかってる

恐怖が私を包まないのはきっと、一緒に過ごしている彼らの…晴人さんのおかげ…
















『ん?メール…』



仕事中に届いた晴人さんからのメール




To:美花

悪い
今日は用事があって、美花を迎えにいけない
翔に頼んでおくから今日は翔と帰ってほしい
ごめんね
お詫びにケロちゃんの特技を帰ったら特別に見せてやるから♪

Haru







『そっか…今日は晴人さん、来ないんだ…』



なんとなく日課になっていた事もあって晴人さんがいない隣が寂しかった



「悪い!待ってろ!」

『いえ、今日はどこにも寄る予定がないので先に帰ります』



急に入った仕事に翔さんは帰れなくなった

待ってろと言われたけど、もうすぐ親友イオリの結婚式

早く帰ってピアノの練習をしたかった私は、翔さんに断りを入れて一人で会社を出た



















駅から外に出ると、悪魔ハウスに向かって歩みを進める

一人の時間も好きなのに、数日ぶりの穏やかな時間に物足りなさを感じてしまう

耳からそっとミュージックプレーヤーに繋がっているイヤホンを外すと街の雑踏や周囲の匂いも一人だとよく感じる事が出来る

だけど…

物足りなさの奥には晴人さんの存在があって…

出逢ってまだ数日だというのに私の中で晴人さんの存在が大きくなっているのをヒシヒシと感じていた

でも、数日後には天ぷらとなってこの世からいなくなる私…

この想いを彼に伝える事はできないと胸の奥に閉じ込めた





ふと、周囲のざわめきが気になり人々の行く方へと自然に足が動いた

騒ぎの中心に近づくにつれて周囲に立ち込める臭いと煙たさに心臓がドクンと音を立てた



『…火事…?』



つい数日前にも嗅いだ、物が焼ける臭い…

急にあの日の恐怖が甦り手足が震え出した

あの時はびっくりしている間に悪魔が現れて…

恐怖を感じる暇もなかった

だけど…

この臭いと空気があの夜の事を思い出させる

気が付けば自然と自分の両腕をギュッと掴んでいた

もし、この火事で逃げ遅れた人がいたら…

もし…

天ぷらになる人がいたら…

ひと事と思えないこの場から、離れる事も進むことも出来ずに私は立ち尽くした





ドン



『あ…』

「ボーッと突っ立ってんなよ!」



後ろから来た人とぶつかり私はその場に両手をついてしまった

立ち上がろうとしても足に力が入らず中々立ち上がれないでいた

頭の中を【死】というものがグルグルと回る

私は…死ぬのが怖いの…?

考えないようにしてきた現実が急に目の前に現れて恐怖が私の心を支配していく



『…うっ…う…』



泣かないと決めていたのに…

涙が頬を伝う

晴人さんの存在が恐怖を隠してくれていた

皆が私に恐怖を与えないようにしてくれていた




「美花!」








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