DEVIL | ナノ





行っちゃ、ヤダ!





『志貴くん…起きて…ねっ?』

「…ヤダ!…」

『もう…遅刻しちゃうよ…』



毎朝繰り返される同じ会話

困った返答をしても心の底から困ってるわけではなく…

ホントはもう少し時間に余裕はあるんだけど、朝のまどろみと志貴くんとのこのやりとりが私は好きで…

ごめんね、志貴くん…

彼の腕から逃れようとすると益々絡みついてくる志貴くんの腕が、私の体をギューギューと締め付ける



『…く、苦しい…志貴く…』

「…休んで…今日…」



瞼は重く開かないみたいで、ずっと目は閉じたまま



『休めないよ…仕事だもん…』



志貴くんのトレードマークでもある黒ぶちのメガネはベッドの脇に置いたままになっている

夕べもメガネを外し忘れてたのを私が外してサイドボードに置いた

いつも眠気が勝っちゃうんだよね…

志貴くんは自分の仕事が終わるといつも倒れ込むように寝てしまう

疲れる仕事してるもんね…

ホントは…

志貴くんと一緒に一日を過ごしてあげたいんだけどな…

私は普通の人間で志貴くんみたいに能力のある悪魔の気持ちはわからないけど、仕事を終える度に気を失うように眠る志貴くんを見ていると能力を使うのは本当に疲れるんだと思い知らされる

私が志貴くんにマインドコントロールされたのを思い出して泣き出してしまった時…

志貴くんは、仕事を辞めるって言い出して…

自分の存在が志貴くんに悪影響を及ぼしているんじゃないかと悩んだけど

私には志貴くんが必要で…

志貴くんにも私が必要だってわかった今は前よりももっと

私の全部で志貴くんを…



「…ダメ…今日は…行っちゃ…ヤダ…」



私を抱きしめる腕は力を緩めるどころか、益々強くなる

だけど、志貴くんの声は眠りに落ちて行った



『…志…貴…くん?』



今日はいつにも増して一段と駄々をこねているみたい

そっとサイドボードに手を伸ばし自分の携帯を開く



『…?…メール?』



携帯に届いていた1痛のメールに笑みが零れて心の中でそっと感謝をした

私は恵まれている

大好きな人に必要とされて

毎日を一緒に過ごす事が出来て

私たちを温かく見守ってくれている人たちがいて



『…ありがとうございます…翔さん…』



そう呟いて携帯を握りしめた時、志貴くんの瞼が押し上がる

大きな瞳で私を見る眼は…

寝ぼけているとは到底言えなくて



「美花、今誰の名前呟いたの?」



さっきまで本当に眠気と格闘していた人とも思えない口調で私から視線を外さない

彼の視線にドキドキする自分がいて、質問に答える事を忘れていた

いつもはメガネ越しに見るその瞳はすごく綺麗で吸い込まれそうで…

だけど、マインドコントロールする時みたいな怖さはなくて…



『…今日、お休みになった!』



自分から志貴くんに腕をまわして抱きついた



「え?」



何が起こったかわからないという表情の志貴くんに翔さんから届いたメールを見せる



「あ…美花、誕生日…」

『うん♪うちの会社、誕生日休暇があるのを忘れてたの…翔さんがちゃんと手配してくれたみたいで…』



ほんの少し前まで自分がこの世からいなくなる事ばかり考えていたから、自分の誕生日なんてすっかり頭の中から抜け落ちていた



「…美花の…誕生日…」



ボソッと呟いた志貴くんの声が何となく寂しそうに聞こえて、不思議に思い彼を見る

眉間にクッと力を入れて私を見てる



「誕生日…覚えてたはずなのに…」



今にも泣き出しそうな表情をして声を絞り出す



『いいの…』



ニッコリと笑って彼を見る



『私には自分の誕生日より志貴くんと一緒の時間が大事なの!だから、そんな顔しないで?』



まだ悲しそうな表情の志貴くんの頬を撫でる



「…美花…嬉しそう…」

『うん♪お休みになって志貴くんと一緒に過ごせる事が嬉しい』



真っ赤になった志貴くんが私から視線を逸らす



「…美花、キモチワルイ…」

『へへっ…え?ちょ、気持ち悪いってひど…』



また彼の腕が私をギューギューと締め付ける

だけどすごく幸せを感じていた










私の全部で志貴くんを…愛するから

ずっと…

ずっと…

私のそばにいてね?

私を志貴くんのそばにいさせてね?








「美花に俺の宝物やる」

『え?…い、いいよ…』



何となく遠慮すると…

ホッとしたような溜息が聞こえた

貰えないよ…だって志貴くんの宝物って



「…レ、レアの食玩なのに?」



志貴くん…声が上擦ってるよ…



『志貴くん、時間できたしもう少し寝よ?』



私の言葉に志貴くんはいつものように私の胸に顔を埋める

すぐに睡魔が襲ってきて

眠りにさらわれそうになった時、志貴くんの声が聞こえたような気がした



「誕生日おめでとう…美花

生まれてきてくれてありがとう

俺と出会ってくれて…ありがとう…」



それは、本当に素敵な言葉で

私の心に深く刻み込まれたのだった

私の方こそありがとう…志貴くん…






「顔がにやけてる…やっぱ、美花キモチワルイ…」












-end-

title: 確かに恋だった 様

2011.07.31




of* かや様に捧げます

HAPPY BIRTHDAY かやたま
1日遅れてすみません
素敵な年になりますように!

これからも仲良くしてくだしあ\(^O^)/


幸より

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