LAST SONG | ナノ





See You






「…驚いた…。こんなとこで再会するなんて…」

『…ホント。卒業式以来だね?…透…』



高校卒業と同時に家の事情で芸能界に入った俺は…それ以来、仲間とは連絡を取っていなかった

撮影の為に訪れたとある街で彼女に再会した

高校の同級生で…

ライナスのメンバーで…

俺は、彼女の事が好きだった

いや…

今でも…好きだ



「今、撮影で来てて…美花は?」

『私は家庭教師のアルバイト先がこの街だったの…』



だって、彼女と話してるだけで、こんなにも俺の心臓はうるさい



「今から?…そのバイト…」

『ううん。もう、帰るとこ…』



奇跡…?

本当に奇跡に近いのかも…



「携帯の番号、教えて?俺、あれから変わったんだ…」

『あ、私…変わってないよ…』



美花の番号は、わかってる…

だから、俺から彼女の携帯にワン切りをして空メールを送った



「せっかく会えたんだ。今度、飯でも食おうよ♪」

『…うん』



変わってない…

彼女の笑い方

クスッて、はにかむ



「水橋さーん!」

「じゃ、ごめん。連絡するから…」



きっとこの時の俺の顔は締まりがなかったんだろうな…

あまりの嬉しさにシリアスなシーンだったにも関わらずNGを連発したんだ



仕事が終わって、彼女にメールをした

高校生だったあの頃とは違う…

最近は、毎日のメールが当たり前になってる

他愛ない話題や日常の些細なこと…

そして、彼女が最近バンド活動を始めた事も聞いた

付き合ってる彼氏がいない事も…

チャンスだと…思った…


あの頃は、彼女の幼なじみの和哉がいて、理人がいて、瞬がいて…

皆、彼女の事が好きだった

だけど…

誰一人として、美花を自分のものにしようなんてしなかった

…俺も…

【和】を乱してはいけない気がしていた

今、俺達の回りには誰もいない

思い切って告白を決めた俺は、美花と付き合う事になった

大人になる年齢まであともう少し…

すでに高校を卒業して2年がたっていた…







まだ俳優として駆け出しの俺は、スケジュールで縛られる日々を想像していなかった

彼女の家庭教師の日やバンド活動、そして俺の仕事の合間を縫って会うようにしていた

最初は良かった…

ゆっくりだけど愛を育んでいる

それが俺達のペースだったから…

そんな毎日が続くと思っていたから…

手を握るだけで十分だった俺

いつも顔を赤くして中々目を合わせてくれない彼女

恥ずかしがり屋で、純情で…

まだまだ子供だった俺達

いや…

子供だったのは…俺だけだ…




急に決まった連続ドラマの準主役

忙しさを理由に彼女と連絡を取らなくなった

人気が欲しかったわけじゃない



――これで家族が楽になる…



俺の頭に最初に浮かんだのはそんな事だった

ドンドン埋まっていくスケジュール

でも、彼女との距離はドンドン離れていって…

美花の事を考える事がなくなってしまった






あれから何年経っただろう…

最近、ライナスをよく思い出す

そして…美花を…



















「美花先生、さよ〜なら♪」

『さよ〜なら♪気をつけて、ちゃんと前向いて!』

「は〜い♪」



ブンブンと両手を振り、笑顔で帰っていくピアノ教室の生徒

私は大学を卒業して、ピアノ教室でアルバイトをしながらバンド活動もしていた



『…はぁ〜…』

「あー、また溜め息ついてる〜」
『あ…、見られちゃった…』



同僚に指摘を受けたように、最近の私はいつも溜め息をついてる

理由はわかってる…



「ホントに水橋透、引退したんだね…」

『…そうだね…』



透の引退を特集した雑誌をペラペラとめくり、彼女がポツリと呟く

透と連絡が取れなくなって3年が経っていた

忙しくなったのはわかっていた

ドラマや映画もあれからかなり出ていたし…

ただ、何の説明もなく
透の電話番号もメールアドレスも変わってしまって…

私はそれが悲しかった



「好きだったんだけどなー。水橋透…。」



彼女の言葉に心臓が飛び跳ねる



――好きだった…



私は……今でも好きだよ…

不器用でドジであがり症で

何の取り柄もない私を好きになってくれた透…

ほんの少しの間でも心が通い合えた

奇跡だと思う…

これだけの人がいるのに…

毎日、いろんな人に出会うのに…

想いが通じた相手がいたってだけで…



「…っ!……ちょ、嘘」

『?…どうしたの?』



彼女の視線は雑誌ではなく、私を通り越していた









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