『ねえベルフェゴールくんってなにかんがえてるの』

文の切れ目もあったもんじゃない。早口言葉を言うがごとく捲し立てた女は俺が『お前何言ってんの?』という表情をするとすこし赤くなってもう一度『ベルフェゴール君って、何、考えてるの』と言った。一応言葉は聞き取れたが肝心の意味がついてこない。しかもこの女、俺に怒っているように見える。会話したのとか初めてだと思うんだけど。

「わたしベルフェゴールくんのことすごく、すごくそんけいしてたのうんどうもできるしべんきょうもできるしでもそれをひけらかさないところとかいつもすごいなあっておもって、おもってたのだけどいますごくがっかりしてるのわかりますか?」

つまりお前は俺のこと好きだったけど俺に彼女が出来たから恨んでるわけ?笑える、どんだけ妄想働かしてんの。いつもならそんな女なんて適当に二言三言喋ってやってそのまま帰るんだけど、どうもこの目が俺に好意を持った目に見えねえもんだから暫く聞いてやることにする。どうせ俺が話さなくても女は飽きるまで喋るんだろう。

「とどのつまりはねベルフェゴール君、なぜ君は博学才英でありながらあんな女の子を選んでしまったの?」
「はあ?」
「私は悪口を言うのは好きじゃないから言わない」

要するに俺には人を見る目が無かったと?

「私がベルフェゴール君だと思っていたベルフェゴール君はもしかしたら私の想像の中でのベルフェゴール君だったのかもしれない。人は完璧じゃないから」

勝手に想像して勝手に尊敬して勝手に失望するとかほんとにやめてくんない。
俺は踵を返した。

しかし遠ざかる俺の背中に向けて、彼女は最後にこう投げた。

「ねえ!ベルフェゴール君もちゃんと人間だったんだね!私きみの欠陥も含めてちゃんとベルフェゴール君が好きだ!」


おかしいな、振り返っちまった先に見えた彼女はものすごく奇麗だった。