ナギサが死んでからは様々な幸、不幸なことが起こった。…まずマーモンが死んだ。これはとても不幸な出来事だった。新勢力のミルフィオーレというマフィアに濃縮トゥリニセッテを吹っ掛けられて、即死。俺は正直、マーモンならどこかでまたふらっと現れてくれるに違いないと思っていたし、今もそう思ってる。前だって予兆もなく帰ってきたのだし、何より突然すぎた。

マーモンはナギサが居なくなってからあまり口をきかなくなっていた。マーモンにとってナギサとはただの研究資料ではなかったようだった。ときどきマーモンはこう言ってはまた黙り込んだ。



「資料に使うからって適当なこと言って昔、何枚か写真を撮ったんだ。そのナギサは女神みたいに綺麗だったよ。そもそも僕は神なんて信じないけど、もしいるとしたらあんな感じなんだろうね、ほんとうにさ」



そしてふたつめの変化は幸と呼べるんじゃないだろうか。ヴァリアーから女のいやらしい香りが消えた。すっぱり消えてなくなった。俺はもちろんのこと、スクアーロやボスまでもが「女に手出す気になんねえよ」と、今までがまるで嘘だったかのように。

女の香りが消えたヴァリアーはただの血溜まりの臭いしかしなくなった。ぜんぶ死だ。だけど不思議とストレスには思わない。なあ、全部全部お前のせいでお前のお陰っつったら何て言う?、ナギサ。



「ボス、遮光カーテンを買ってくれないかな。とびきり質のいいやつを」

ナギサの写真をトゥリニセッテなんかで駄目にしたくないんだよ。僕が大切に仕舞っていても良かったんだけれど、なにせもうすぐの命みたいだから。



なんてマーモンの心の声が聞こえた気がして、俺は真っ暗に染め上げられた遮光カーテンをマーモンの部屋に取り付けた。側のチェストにはナギサの笑顔を置いて。


なにもかも手遅れだった。なんて言いたくもないけど本当なんだ。女癖が治っただけじゃさあ、なんの見返りにもならないじゃん。果たして遮光カーテンはトゥリニセッテを防げているんだろうか。


「無理だ、マーモン。守りきれねーよ…」