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探せばいくらでも噛み合わない記憶はあった。まずマーモンのこと。数週間前まで任務をしょっちゅう代わってもらっていた彼のこと。今はもういない。だけど皆マーモンのことなど忘れたかのようにしている。そしてフランがいる。霧の守護者はフランなのだ。

私が片目を、片腕をなくしたのはいつ?それさえ思い出せない自分に腹が立つ。ああこれは何の記憶障害なんだろう。
目の前に広げた記憶のメモもひとつひとつが曖昧かつ繋がりを持たない。気づいたときにはそれらをすべて破り捨てていた。


「ッ…!」


感情の高ぶりは執拗に涙腺を揺する。泣きながら紙を丸めて捨てた。嫌だ、全て腐ってる。世界中探したってきっと彼はいないんだ。私という個体すらおかしくなった。



「おいカス」



扉ごしに声が届いた。切磋に泣き止んで涙を拭く。はい、と呟く。



「知りたいか、お前という人間を」

「…私、という…人間、」



ついおうむ返しに口を開いてからはっとする。ボスは全部知っていたのか?全て。こうなる事が予想できていて、いやきっとこうなる定めだと知っていたのだろう。唇から血が伝う。私は唇を思い切り噛んでいた。気づかない自分が本気で怖いと思った。



「ボス」

「…」

「教えてください、全て」



ボスの紅の瞳さえ今の私には優しかった。