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ヴァリアーで初めて目を合わせたのはフランという少年だった。あれから私は事あるごとに号泣し任務中ベルやフランを困らせていた。他人の目というのは怖い。比喩でなく、目という物体が怖いのだ。



「なあ、もう俺らお前をフォローできねーよ。体力的には問題ないけどさあ、昔の男思い出して泣いてる女のフォローとかマジムリ」

「ミーも同意でーす」



ついに私は見捨てられた。いいのだ、彼が見つかればそれでこの集団からもおさらばなんだから。

と思ったのもつかの間、私はスクアーロの補佐役に回されることになる。片目片腕なくなった女のどこにそんな素質あるんだか、と自分でも思う。スクアーロはヴァリアー内では割と煙草に寛容で、車内で吸っていても窓を開けさえすれば黙っている。そこはとても楽だった。

任務の帰り、自殺志願者のようにアクセルを踏みまくるスクアーロが私の方をちらとも見ずに言った。



「なあ、ちょっとボスに連絡つけといてくんねぇかぁ」

「はい、えっと…」

「あー。番号な…」



律儀にも赤信号で急停車した隙に、スクアーロはさらさらとメモを書いていく。ボスの幹部用携帯番号。受け取る間際、急に煙に巻かれた頭がクリアに冴え渡る。








なんで今まで知らなかったんだろう。


左側から頭を鈍器で殴られたような気持ちがした。おかしいおかしいと警告音がこだまする。幹部になったのはもうずっと前のことなのに。今まで見なかった振りをしていただけなのか。