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殺すのがきらい。殺すのがすき。今までは一応一般人として生きてきた私にとって殺すのが好きか嫌いかなんて考えたことがなかった。しかし今考えてみたところで答えは雲を掴むように捉えようがなく、なんとなしに点けたテレビのチャンネルのように日常茶飯事でしかも興味のないものであった。

彼のこと。煙草のこととお金のこと。それと、すこし妹のこと。私の脳内はそれ以外のことを徹底して拒否しつづけた。



「お前に似合う凶器ってなんだろうね」

「ライター」

「しし、炙るの?」

「燃やすの」



それ暗殺じゃねえじゃん。笑ったベルに返事がわりの瞬きをすれば一生彼氏みつかんなきゃいーのにと椅子から立ち上がったベルが呟いた。思わず仰ぎ見ると嘘嘘。と手をひらひらさせた。ああ、私が向こうの世界にいたときにもこんな、一場面あったかもしれないな。なんてらしくないデジャヴュが薄く流れていった。



「ねえ」

「なに」

「ベルじゃないよね」

「そんな証拠どこにあんの」



でも私は分かっている。彼じゃない。襟足から肩甲骨の真ん中までのびた大きな傷痕を私は覚えてる。彼が彼である証拠。
だけどすこしだけ遊んでもいいかも、しれないな。私も立ち上がってベルを覗き込む。きゅっと上がった口角は嘘っぽい感情がすべて透けてしまいそうで無意識に目を逸らした。



「な。やっぱだめだろ。そういう感情は時に自分を苦しめる。覚えときな」



じゃあベルは私がベルと恋愛ごっこなんかできないことを知っていて毎日纏わり付いたのか?暗殺者。分かっている。こんなことリモコンのボタンを押すくらい簡単なんだきっと。どうしたらいいかわからなくてだから、とりあえず屋上へ駆けた。煙草は私を騙さない。


殺すのが好きか嫌いか?殺されるのは嫌だ。