*




立ち上がるとソファの隙間から領収書が落ちる。昨日、マーモンに任務を代わってもらった時のだ。煙草をくわえたまま拾い上げて裏返す。彼じゃない。彼は必ず領収書をメモ帳がわりにするから。

なんとなく空虚。薄暗い部屋を出て螺旋階段を上る。屋上。意外にも煙草を嫌うヴァリアー内では喫煙者は肩身が狭い。ふぅ、と煙を吐き出すと軌道のないそれがゆらゆらと空気に溶けた。



「会いたいなあ」



彼が私の目の前から消えたのは3年前の夏だった。煙を目で追いながら考える。彼は今どこで何をしてるんだろう。他の彼女とかつくっちゃったかな。もしそうだったら裏切りだ。
私は彼の消息を追ってヴァリアーに入った。充分な理由も話さないまま入隊した私を彼等は黙って受け入れた。有り難いとは思っているつもりだけど。



「そんなやつのこと早く、忘れろよ」

「無理」



背を向けたまま考える。ヴァリアーのみんなはまだ、私のことを哀れに思っている。しかも彼等は私がまだ塞ぎ込んだままだと思っている。そうじゃない。

私は彼を追っているだけだ。



「何で俺らと目も合わせない訳?お前…」



彼の声じゃないから答えなかった。