*******




いくつもの気配が背後でゆらめいた、しかしそれを振り返ることは叶わない。ザンザスに頭を掴まれたままの私はそのまま抱き寄せられた。
自分は誰を愛しているのか、誰に愛されているのか。一瞬分からなくなった。
はっとして彼を見るけれど、しかし小さく嘲り笑うだけで私の期待を簡単に裏切ってしまう。

少しだけ、少しだけ彼を疑い始めていた。



「この世界のナギサはテメェのモンじゃねえ。俺の部下だ」

「個人的な感情絡めて言わないで欲しいな。君を愛していたナギサはずっと前に死んだろ?」



何を言ってるんだろう。ひんやりした空気が頬を掠めてふと視線を上げる。僅かに聞こえるモーターの音。冷房だろうか。



「どの世界のナギサだろうと俺のモンには変わらねぇ。汚え手使ったテメェとは違う」



違う。冷房なんかじゃない。



自身の体温がその事実、衝撃によって急速に冷えていくのが分かった。それは私がザンザスの体温を露骨に感じているからなのだろうか。誰に向けるでもない罪悪感を、だからこそ彼に向けた。