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無我夢中で駆け上がる。今私の中には彼のことだけを考える脳みそと、呼吸をするための肺と、走るためだけの足がある。きっと眼なんて役に立たないよ。嘘しか映さない眼なんか。

私がみてきたものは全て、嘘だったんだ。


タバコに寛容なスクアーロなんて嘘だ。彼は私のタバコを幾つもゴミ箱に捨てていた。
私のことを心配するルッスなんて嘘だ。ふとした瞬間にサングラスの奥が苦々しげに歪んでいた。
ボスの命令なんていうレヴィだって嘘だ。こんなことになる前に何故殺さなかったんだ、ってフランを叱ってたのを見た。
私を愛していたベルも嘘だ。ベルが愛してたのはずっと昔の誰かだ。
哀れむように私を見るフランも嘘。あれは哀れんでたんじゃない。蔑んでたんだ。

全てを教えてくれると言ったボスは嘘だった。嘘じゃないとしたら私は今銃口を向けられてないはずだ。