******* 無我夢中で駆け上がる。今私の中には彼のことだけを考える脳みそと、呼吸をするための肺と、走るためだけの足がある。きっと眼なんて役に立たないよ。嘘しか映さない眼なんか。 私がみてきたものは全て、嘘だったんだ。 タバコに寛容なスクアーロなんて嘘だ。彼は私のタバコを幾つもゴミ箱に捨てていた。 私のことを心配するルッスなんて嘘だ。ふとした瞬間にサングラスの奥が苦々しげに歪んでいた。 ボスの命令なんていうレヴィだって嘘だ。こんなことになる前に何故殺さなかったんだ、ってフランを叱ってたのを見た。 私を愛していたベルも嘘だ。ベルが愛してたのはずっと昔の誰かだ。 哀れむように私を見るフランも嘘。あれは哀れんでたんじゃない。蔑んでたんだ。 全てを教えてくれると言ったボスは嘘だった。嘘じゃないとしたら私は今銃口を向けられてないはずだ。 |