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一瞬の静寂ののちそれを切り裂いたのは私が椅子を傾けた音。瞬きをする隙もなくその背にナイフが突き刺さる。



「気づいてんなら大人しく降参したら」



気づいている?一体何に?なんて馬鹿らしい小芝居だ。

彼は生きている、しかもずうっと同じ屋根の下で。気づいてしまったのだ。いつも会いたい抱きしめたいキスしたいと思い続けた割に相手がすぐ傍にいたとは想定外すぎた。いや、望む結果のどんなパターンにもこんな状況なかったんだよ。
唇を噛み締めると、凝固しかけていた血の塊が崩れ生暖かい、それがまた伝った。



「俺は俺が悔しいよ。お前はどう思ってんの」



彼の声じゃ、ない。