「まあ分かってることだと思うがなぁ」

「ういっ」

「ジャッポーネには暫く帰れねえぜぇ」

「ういっ?」


両手にモンブランを持ち、くねくねと謎の踊りを披露していた花子に戦慄が走った。なに、帰れないだとっ!
花子はぐいっと首を捻ってこちらを見つめたかと思うと、モンブランを携えたまま走り寄ってきた。きめえ。


「ままままじですかまじでじまですか」

「マジだあ」

「やっぱアレですかザンザスさんの」

「ボスじゃなくったって判断は同じだろぉ…馬鹿かお前」


花子はガッテム!と白目を剥いた振りをし、そして何事も無かったように踵を返した。
今まで沢山の人間、男女を見てきたが、こんな不可解な人間は生まれて初めて見た気がする。紙束をデスクの上に豪快に乗せるのと同時、ボスの足音が扉の前ではた、と止まった。


「てめぇ…」


一体何者だ?


その視線は一点、花子に注がれる。花子もまたしっかりと見返していた。俺にも分かる、あの日から分かってた。花子はただ者じゃねえ。

しかし花子は口を開いて、

「ただのしがない留学生ですよ」

と、だけ言うのだった。