黒塗りリムジンからけだるげに降車した彼女、を見た全員が唖然とした。スクアーロの言っていたことは盛りに盛った空想話だったのだろうか。いや、現実的な彼にかぎってそんなことは、きっとない。 ルッスーリアの隣で、ベルが不満の舌打ちをかましたのも理解できる程である。
「…にほんからー、きましたー。このヤンキーおにーさんに拉致られて今こういうかんじになってまーす。名前は事務所を通してくださー、」
「スクアーロ。こんな奴にシンケンシラハドリされたの?ばっかじゃね」
「シンケン…意味わかんねえ日本語使うなあ!こいつはどうやら二重人格、らしくてなあ」
正直スクアーロも困惑していたのである、この状況。興味本位で連れてきたのはいいがどうやら彼女は超S級に扱いにくい人材だったらしい。ため息もついていられない、比較するならベルの幼少期よりひどい。 だがしかし、剣帝の刃を素手で止めた人間なのは確かであった。それに対する興味と未知数な実力、という響きがスクアーロを動かしていた。
「先輩まじでバカなんじゃねーの。もしくは超弱くなったかどっちかだ」
「超弱いよ」
「…は。お前の実力なんかちっちぇーモンだろ」
いつの間にか眠たそうに膝を抱えうづくまっていた女は、顔だけ上げてプリンスザリッパーを挑発していた。 気づいた時にはナイフが宙を舞っている。仕方ない、雲の守護者はまた探すかと諦めをつけたところで下の方から呟きが聞こえた。
――30本と少し。
そこにはナイフを綺麗に並べ舌を『べぇ』と出す女が、生きていた。
流石にヴァリアーも、彼女の実力を認めざるを得なくなったのだ。
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