年端もいかないガキが、この馬鹿でかいファミリーを纏める総大将をやっているらしい。先月起こった一般人の大虐殺の黒幕もあのファミリー、ときたらヴァリアーも放っておくわけにいかないだろう。元々いい噂のないファミリーだと思っていたら親分はまだ17歳なんだと。目印は顔のタトゥー、頬にのびる3本のゆるい波線。ボスが手渡した写真にはくっきりと黒いそれが見える。
…にしても、俺はこいつを知っている気がする。ずっと前に、このタトゥーに会っている気がする。まぁこの狭いマフィア社会だ、暗殺対象が知り合いなんてざらにあるものだ。スクアーロは気にせず扉を蹴破った。

「残念だったなぁ大将さんよぉ!」

デスクにもたれる女がひとり。おかしい、こいつ仲間を殺したらしい。思わず眉間にしわが寄る。しかも女、悠長に座ってうとうと…って調子乗りやがって。ファミリーなんざ無くてもひとりで生きてけるってか。


彼は一呼吸おくと瞬間、女を切り付けた。正しく入れば頭が飛ぶ位置、誰が見ても女の命は事切れたと判断するだろう。しかし、しかしだ。彼もわざと失敗するなんて頭の隅にも置いちゃいない。仕留めたはずだったのだ。

『べぇ』

と舌を出して無表情で見つめる瞳、あまり力はあるように見えない。しかし彼女の右手にはスクアーロの刀身が握られていた。彼はそれを理解すると同時に寒気立ち、刀を抜き取った。
つう、と手首に血が伝う。痛いのだろうが気にしないというような表情で彼女は匣を仕舞った。ゆっくりと立ち上がる。

「あんた、私がボスだと思ってる?」

「は…?」

「殺しに来るならちゃんと調べてよ。ボスは今何処にもいない。私は代わりに立てられた囮だって」