「あのねフラン、私、あなたを殺せない」
「…急に物騒なこと、言わないでくださいよー」
「全部知ってるんでしょう?…下手したら私より、」
「ミーは何も知りませんって」



じゃあ何で、あの紙が、ブレーカーを切るスイッチだって知ってたの。問えば、それはミーが仕掛けたからですと彼は答えた。
とんとん、と階段を降りていく。光を失ったマーモン様のメモはもうただの紙切れ同然。少し迷ってからポケットに突っ込んだ。フランがカエルを叩いて無線を壊したのを、音で察して悲しくなった。フラン、やっぱり知ってるんでしょう。

それにしても階段は続く。私は何段降りたのだろう、おかしい、こんなに階を降りれるはずがない。まさかフランは暗がりで「私を殺すつもり」?実体のない不安ばかりが募る。
そもそもボスがこんな子供を幹部なんかにしたから、今私が辛いんじゃないか?そうだ、殺されそうになったら殺せばいい。なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。私だって殺し屋の端くれ、いや元は幹部になるはずだったのだ。

私のキーを叩く理由は、実はマーモン様の救出ではない。自らを幹部にする為の過去操作、ざっくり言えばマーモン様とフランの抹消。記憶から消えれば辛くはない。マーモン様は本当に優しく気高い、尊敬する人物だったけど、記憶から消えれば。

もっと殺したい。私はもっと血を見たい。殺したい。世間に忌まれたい…。


忌まれてあなたに殺されたかった。






「キーボードに忠誠を誓ったのは、あんただけじゃないです」
「…」



おかしなくらい階段を下った先には、広い地下室があった。そこで私は言葉を失った。大量の、「身代わり」たちが、そこに居た。皆、斜め下を見つめている、感情はない。地下の静寂と冷たさに身震いした。



「あの機械はミーが弄らせてもらいました。ブラックコーヒーのプログラムも、ミーが。自滅プログラムもミーがやりました」
「ブラックコーヒー…」



ああ、マーモン様の優しさをかみ締めたと思っていたあの、あの出来事も彼の仕業だったのか。一瞬怒りと絶望が体を駆け巡ったけれど、次の一瞬にはまた別に、絶望していた。



「ミーはもう機械を完成させました。あんたにこの仕事を任せるわけにはいかないんです」
「…どういう、…」
「頭脳ですよ、センパイ。あんたに造れなかった頭脳」



そう言うと、フランは一歩下がって礼をした。カエルが落ちた、綺麗な緑の髪だった。綺麗だった、すべてが綺麗なもので出来ていた。私に勝つ余地はなかった。キーボードに忠誠を誓ったのは私ではなかった。私ではなくフランだったのだ。




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