身代わりが真六弔花の資料を、ボスまで届けた数日後、私はまたキーを一晩中叩きつづけることになる。つまりマーモン様の為の仕事以外にも、任務が増えたということだった。任務、といえば今のボンゴレ情勢を把握している人間にとって、それにあたるのは、ひとつだけであって。



「…なに。修羅開匣?きいてないよそんなの。…ベル?あんたちょっ…、聞いてます?」



くそ、無線切りやがった。私は一言呟いてからまたキーに指を滑らせる。身代わりの操作もキーでこなしつつ、2台目のノートでマーモン様の遺した発明品の解析を進める。なかなか骨の折れる仕事だけど、やめたらそこで色々終わってしまうから困りものである。ため息をつく暇もなく、身代わりを回転させ敵をひと突きふた突き。
身代わりといったってヴァリアーだ。昔のモスカみたいなヘボ機なんか比べものにならないくらい、彼女は正確にかつ俊敏に動いてくれる。

しかし現場の音が入ってこないのは、遠方から機械を操作する立場上、この上なく資料不足だった。ベルが無線を切るのは本気になってる証拠…。諦めて無線をフランに繋いだ。こんなとき最も事を客観的に報告できるのは、スクアーロよりルッスよりレヴィより、フランなのだ。悔しいけれど必要性の高い人材であることは確か。もうすぐヴァリアーから消えるけどね、と私は小さく舌を出した。



「げ、センパイ。よりによってミーに援護頼むんですかー」
「……仕方ないでしょう。ベルが無線切っちゃったんだから」
「堕王子、いつになくマジですねー。ミー達のことあんまり見えてないんじゃないですか?」
「ベルだからね。そういうわけでお願い、フラン隊長」



ほんっと、そういうとこだけミーを持ち上げるんですねセンパイ。なんて厭味を垂れながら、フランはカエルをコン、と叩いた。映像が切り替わる。私は身代わりを少しだけ引っ込めた。このままだと身代わりが、ベルに切り裂かれるところだった。危ない危ない。



「あ、なんですか隊長ー。ハイハイ分かりました了解でーす」
「ベルに任せるって?」
「さすがヴァリアー歴長いだけありますね。ハイ、ここはベルセンパイに任せるそうなのでー、ミー達は一旦引きます」



そこで通信は切られた。私は少し伸びをして、身代わりに帰還プログラムを指示すると、任務用のコンピュータを閉じた。ノートパソコンを中心に置いて暫くカタカタしていると、派手な音を立て誰かが扉を蹴破った。さっき付けたアイマスクを思わず外すと、そこには血相を変えたスクアーロが立っていた。



「…なぜ身代わりをベルのナイフの射程内に放置したぁ?」
「は」
「身代わりは死んだろぉ!なぜ死ぬと分かってて放置したって聞いてんだあ!」



身代わり、は、死ん、だ?

震え出した手ですぐさま任務用コンピュータを開く。その画面には、ザーと砂嵐が広がる。彼女が破壊された証拠には充分すぎる事象だった。私の呆然とした姿を見て察したのだろう、スクアーロはギリ、と奥歯を噛み締めた。



「とりあえず身代わりは回収させる、敵にプログラムがばれたら終わりだからなあ。それとあと…、っ…」
「……………」



私もスクアーロも言葉が出なかった。フランが復讐を始めたのだ。ヴァリアーで彼の幻術に敵うものはいない。こんなとき私は縋ってしまう、マーモン様の面影に。



「………身代わりはもう要りません。私はマーモン様の蘇生にだけ尽力させて頂きます、いいですね、隊長?」



隊長は小さく、だけれどしっかり頷いた。私はその後ろにフランの怪しげな笑みを見た、きっと隊長には見えていないんだろう。







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