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支給されてた安いスーツもいつの間にか正規の隊服に変わってて、えーとこれでわたしはきちんと入隊したと言える立場になったんでしょうか。いまいち自分の立ち位置を発見できないまま、ずっしりとした隊服だけが、わたしにヴァリアーの肩書を縫い付けた。



「罪悪感とともにーなんとなく給料が上がった喜びー」

「その変な歌やめてくださーい」

「ちゃんと韻ふんでるんですよ!」

「憤慨する意味が理解できない」



バターン、と音がしたのはその時だった。よく思うんだけどここの暗殺部隊って派手に騒音出し過ぎだ。スマートさのかけらもない。気づけばあっちで白熱した「叩いて被ってジャンケンポン!」、そっちでは最後のフレンチトーストの取り扱いが銃乱射の撃ち合いに発展。危ないったらありゃしない。

でもその「バターン」の原因は隊員じゃなかったみたいだ。しかも物が倒れた音とかじゃなくて明らかに「バターン」って叫んだし。



「バターン!」

「…あ、そうだ連絡係…」



思い出した。そうだわたし元はスパイだった。自発的に記憶喪失するとこだったあぶねー!



「…ちょっとまて発言から何も推測できねー。まずバターンって叫んだ奴、お前誰だ」

「おー、堕王子なんかしゃしゃりでてきた」

「読者への配慮だね。りかいりかい。こいつはボスだよ」



こいつ、と指さされたボスは明らかに涙目だった。そうだボスってば先端恐怖症だ。



「お前のボスはザンザスだろーが」

「前いたとこのボスだよ」

「お前のボスはヴァリアーが気づいてくれないからって自分で『バターン』とか言っちゃうのかそーかそーか」



ボスは別の意味で涙目。ていうか別の意味ですごいナイスな人だと思うよボス。なんでいっつも学校の備品みたいな机に座ってたんだろこの人…あ、いやボス。
俺は昔名を馳せたヒットマンだったんだー!って酔っては口走ってたけど、先端恐怖症の人間がヒットマンにはなれないと思う。無言でファミリーを出てから客観的に見ると、なんだか存在すら奇跡みたいなファミリーだった。
フランがちょいちょいとボスに歩み寄る。ふんふん、と頷いてから手を叩いた。



「え、ハイなになに…。みなさーん、名前の元ボスお帰りになるそうでーす」



ボス帰っちゃったよ。発言「バターン」だけなんだけど。

思わず追いかけてボスに「ごめんね、ありがとう」とだけ言うと、「おめでとう。頑張るんだよ」と返された。ボスったらなんて所有欲のない!



「ねえベルあのファミリー潰そう。あのボスやっぱりこの世界向いてないよ」

「殺すってこと?ならいいけど」

「ううん。ボスは殺さなくても平気だしファミリーだけ無くそう。なんか可哀相になっちゃった」

「言える立場じゃないですけどねー」



遠く見えた黒塗りのワンボックスカーを見ながら、庶民的だなと呟いた。



「そういえば、連絡係って何ですか?」

「うちのファミリーのスパイの意味だよ」

「お前のファミリーさ、マジで小学校か中学校だったんじゃね…?」




20101009