「来てみましたよーっと……と?」

「あ、フラン隊長。ごめんなさい師匠の弱点をみつけてしまった「クファッ!」

「…あーあーあー」



みーなかったみーなかった、とまるでお経を唱えるみたいに口をもごもごさせたフラン隊長。わたしはもうひとりのスパイである師匠のヘタ部分をぎゅっと握り締めたまま、隊長を呼び止めた。

振り返ればあからさまに不機嫌な隊長。すたすたと大樹の枝を渡ってきた隊長は、師匠が「クファ!」って言っているそばからヘタを引っ張りはじめたのだ。わたしはそのなんともいえない絵面を眺めては、自分の立場について疑った。わたしも、スパイなんだけどなあ。



「このパイナポー星人め…仕事増やしやがって…。腐れえー」

「腐ればいいんですがねーこれが」

「これ…!?これ扱いなの!?師匠だよ!?ひどいよ暗殺部隊ひどい!」



さて、この脱力感をどこへ向けたらいいのやら。敢えていうならば、きっとこれはハッピーエンドに向かうのだろう。足元の死骸が生きていたらなお良かったのだろうが仕方ない。ごめんね同僚。いや、21歳の若造。アラサーが21歳を悼んでやるよ、わたしなんかよりもっとマシな頭してただろうにね。冷たい腕をぺちぺち叩いた。

わたしはもともと弱小ファミリーのヒットマンだ。だけど最近不況だから、情報筋の仕事も始めるようになってこの依頼も受けた。ボンゴレ最強暗殺部隊ヴァリアーの内部機密の調査。はっきりいって無理だった。駆け出しの情報屋にこんな超Sの依頼、こなせるわけない。だけどわたしは引き受けた。あわよくば、そのままヴァリアーで働きたかったのだ。



「名字名前26歳、本業ヒットマンで情報屋の経験あり。ヴァリアーのスパイのフリしてただヴァリアーで働きたかったってやつですねーあるある」

「ないない」

「あるある」

「…あるある」

「まあ正式な入隊試験パスしてるんですし、いいんじゃないですか?入っちゃいましょうよヴァリアー」

「緩っ」

「そんなもんですよ暗殺部隊なんかー。ミーだってこの師匠の命令で嫌々ヴァリアーいるんゲフゴフッ」



師匠の鉄拳が隊長にクリーンヒット。
要するにフラン隊長も半分スパイみたいなものらしい。そして何故か師匠さんが、隊長の様子をこっそり見に来ていたらしい。なんか上京した子供に親がこっそりついて来ちゃったてへ!みたいな感じだ。あほらし…。



「アホらしいのはどっちですか。5歳もサバ読んでおいて偉そうな口叩かないで頂きクファッ」

「もうなんでもいいやー。ベル隊長ー助けてー」



自分がスパイだってこと忘れそうだ。師匠さんのヘタをもう一度掴んで、わたしはやけに生意気な同僚、だったベル隊長に助けを求める。どうやらこのいざこざは全て、遊びのひとつに過ぎなかったらしい。アホらしいのは誰だ?皆だ。というかこの物語そのものがアホらしい。どうかご了承頂きたいものだ。



20100908