「おいカエル」「…」「…」「…」「って無視すんな」「なんですか堕お」「死ね」「ゲロッ」「お前、分かってるよな?」「…えーと、センパイが最低な堕王子だってことは分かって」「だから死ね」「ナイフよけっ」「よけんな」「…スパイがもうひとり居たってことでしょー、分かってますよおおおお」「いつになく顔死んでんな」「堕王子に心配される顔はないので」「…安心しろ心配なんざしてねえ」「ありがとうございまーす」



「そういや、忘れてました」「なんだよ」「師匠でした」「………あ?」「物分かりわりーな畜生、ミーの師匠だったんですースパイが」「くまなくうぜえ」「誉め過ぎですよー」「微塵も褒めてねえ」





ああくそ面倒な人間が増えてしまった。わたし以外にスパイがいるとかきいてない。わたしはパイナップル頭の男と対峙しながらお腹のなかではぐるぐるぐるぐる、考えを巡らせまくっていた。

そもそも、なんとなくヴァリアーは騙せているのだと思っていたが、これも本当はどこまで騙せているのだろうか。ヴァリアーが捜しているのはわたしなのか、こっちのフランもどき(のパイナップル)なのか。そしてわたしのサバ読みは、ばれているのか否か。実はこれが一番気になるのだ。わたしは本当は26歳である。アラサーである。



「どうです自首しますか?」

「あなたこそ」

「僕ですか?自首なんてしませんよ」



その歳で僕とかキモくないか。わたしは心のあたりでなんとなく彼を「わたしより馬鹿」とランク付けすると、ある予想を信じてみることにした。そしてその予想を前提に、今まさに動かんとする。大丈夫、わたし、彼よりはまとも。

息をすう。すえるだけすう。肺活量は世界一を誇れるわたしだ。どんどん入る、つめたい夜の空気。今日も夜空は濃いブルーを纏って艶やかに微笑んでいる。



「フランたいちょう!師匠がいらしてますううううー!」



無数の死体が木の下に積もる。わたしの声量に少なからず驚いた彼は、ばあんと銃声を響かせた。これで彼の銃の弾は切れただろう。彼もキレただろう…。









「あーあ、時間外任務ですよー」

「うししっ、楽しみじゃん」



20100722