青い空ー。白い雲ー。んでもって暖かい日差しー。



「…寝たい」

「暗殺部隊なめんな」



ぎゃふ!という自身の叫び声を目覚ましに、わたしは朝を迎えた。目の前にはベル。あのやけに生意気な同僚の。欠伸をなんとかかみ殺しつつ今何時?と聞けばあと30分で訓練、と実にひやりとさせる。彼の思惑通り、わたしは飛び起きた。



「え、ちょまて。まじでか」

「まーじ。大マジ」

「…うんわかったから早くでてけ着替えるから一刻も早く!」



もはや、何故ロックした扉を開けられたのかと聞く余裕すらなかった。つーか起こすならもう少し早く起こしてくれないか。昨日も課題終わらなくて朝方まで頑張ってたんだから…って。
ベルはきっと課題なんて瞬殺なんだろうなあ。そんなの笑わせる。あいつ絶対、平隊員じゃない。今更ながらそう感じたけれど、実は遅すぎた。








「まじお前、朝の行動だけははえーな。朝だけは」

「強調しないでくれこれでも傷ついてる」

「知んね」



新米隊員がロビーに集合し点呼をとる。最近気づいたことなのだが、ベルは大体幹部から、親しみの篭った呼ばれ方をされる。まるで仲間同士がわざと敬語で話をするみたいな、そんなおふざけがまかり通る社会ではないことなど分かっていたけれど、なんだかそんな、気がした。


今日は「青い空白い雲そんでもって暖かい日差し」なのに、訓練はアイマスクひとつ装着させられ地下室行きだった。視界以外の知覚で、視界のある状態と同等の行動をとる為の訓練らしい。地下室の密閉感がやけに耳を押さえ付けた。



「ベルくん」

「ん」

「何歳」

「26」

「…まじ?」

「まじまじ」

「わたし何歳か分かる?」

「21」

「なぜに即答、」

「だって俺面接んとき、お前見たし」

「…え」

「俺試験官だったじゃん」

「……わー、お」



なんだかもうアイマスクに気を取られている場合ではなかった。ベルくんに手を引かれ、ゴールである地上まであらぬ速度で脱出すると、アイマスクをべりっと剥がされた。痛いが生憎、それどころではない。



「ベル…先輩?」

「しし、今更ー」

「なんか、すいません」

「今まで気づかなかったお前傑作。もーちょっと遊ぼうと思ってたのにさあ、」

「ひどくないですか…、ていうかなんで紛れてるんですか、新米隊員に」

「今年の新米にスパイがいんの、まだ特定できてねーけどな」

「…わたしじゃないですよ?」

「んなのわーってるって」



スパイはそんな鈍くねえって。青い空白い雲そんでもって暖かい日差しの中で、私は初めて幹部に呆れました。じゃあなんでわたしを雇ったんだヴァリアー。そして何故私をスパイ探しの相棒にするんだヴァリアー…。ため息は了承の合図だ。




20100609